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CCDのチップサイズは小さい方がいい!?    2002/10/30

 相次いで1/2.7インチの300万画素CCD搭載機が登場し、今後もこのクラスのCCDを搭載した機種が増加しそうな気配です。さらに、400万画素機、500万画素機分野でも、1/1.8の500万画素などチップサイズを大きくしないまま画素数だけをアップしたCCDを搭載した製品が続々登場しています。
 こうした状況の中で、「極小画素の弊害」という言葉が、デジカメの辛口評論を売り物にするライターを中心に、やたらと目に付くようになりました。さらに「評論家ぶった口調で語りたがる個人ユーザー」がこれに追随し、あちこちの掲示板で「極小画素の弊害」とか「画素ピッチが小さいCCDを搭載したカメラはダメだ」と書かれています。先日はどこかのBBSで、1/2.7インチの300万画素CCD搭載機について「技術者の魂を売り渡したようなカメラ…」「ダイナミックレンジを無視した無謀な所業」などと書いてあったのには、大笑いしました。
 
※ CCDのサイズについてはこちらを参照して下さい。


■確かに極小画素CCDには弊害がある

 採用しているCCDのチップサイズと画素数の関係は、デジカメの画質に大きな影響を与えます。多少話を単純化しますが、画素数に対してチップサイズが小さい(画素ピッチが小さい)ほど感度が低い(撮像素子が蓄積できる光の物理量が少ない)…ので、ダイナミックレンジが狭くなります。ISO感度を下げることである程度CCDが蓄積する光の量を増やすことはできますが、この手法には限度があります。いずれにしても、画素数に対してチップサイズが小さいとCCDから出力される信号量が少なくなるため、アンプでゲインアップしなければなりません。CCDから出力される信号全体をゲインアップすることによって、ノイズも同様にゲインアップされ、その結果S/N比は落ちます。
 また、画素が小さいと、それに見合った高分解能の光学系が必要になります。光の性質からみて、あまりに小さい画素ではきちんと像を結ぶことができません。収差が無く分解能の高いレンズは、非常に設計が難しい。また、口径が小さくても高分解能の光学系はコストが高くつくので、あまり使われません。結果として、極小画素CCDを採用したデジカメは、多画素化に見合った解像度が得られないケースも多いのです。
 いずれにしても、同じ画素数ならばCCDのチップサイズが大きくて画素が大きいほど「物理的により多くの光を受光・蓄積できる」わけで、受光量のキャパシティが大きいほど出力できる情報量も多くなります。蓄積可能な電荷のキャパシティが大きいほど、暗部ノイズなども確実に減ります。こうした点を考えれば、「同じ画素数ならチップサイズの大きいCCDを使ったデジカメの方が出力する情報の量が多い」というのは「事実」です。加えて、CCDサイズが大きくレンズ口径も大きい方が、ボケ量が大きくキレイです。
 …これらの「大サイズCCDのメリット」について、特に異議はありません。私も、デジカメに使われるCCDのチップサイズは大きい方がよいと思います。ただし、「小型・低価格のデジカメを製品化できるのなら…」という条件付きの話です。

■チップサイズが小さいCCDのメリット

 逆に考えて見ましょう。同じCCDサイズで画素ピッチを狭小化して多画素化を行うと、いくつかの大きなメリットがあります。
 まずは、チップ面積が小さければ、CCDの量産コストは下がります。CCDメーカーは、製造時の歩留まりが低いアナログデバイスであるCCDのチップサイズを、出来る限り大型化したくないのは当然です。チップサイズを小さくして歩留まりが高くなれば、製造コストは下がります。またCCD部のサイズが同じならば、多画素化にあたって光学系や回路基板などにもほとんど従来品からの大きな変更を必要とせず、旧筐体と旧デザインをある程度流用できます。デザイン費用や金型の費用などを、大きく節約できるわけです。
 次にCCDのチップ面積が小さければ、基本的には光学レンズの口径も小さくて済みます。レンズの解像度の問題は確かにありますが、あまり厳しい条件をつけなければ、やはり小径の光学系の方が製造コストは安価です。CCDの開口面積が大きいほど口径の大きいレンズを使う必要があり、光学系にコストがかかります。また光学系の小型化は、デジカメの小型化にも貢献するわけです。
 またチップサイズが小さいほど、周辺回路を含めた消費電力は小さい。だから小さいチップサイズのCCDを使ったデジカメでは、低消費電力化が可能です。
 ともかく、デジカメにチップサイズ小さいCCDを使うことの、ユーザーにとっての最大のメリットは「低コスト」と「小型化」でしょう。

■大サイズCCDの採用は安易な手法

 「CCDのチップサイズ」や「画素ピッチ」というのは、デジカメの高画質技術の中では「1つのパラメータ」に過ぎません。いくらCCDサイズが大きかろうと、画像処理回路のチューニングやアンプの性能が悪ければ、高画質は達成できません。全ての部分に優れた機能を求めるのはわかりますが、コストとの兼ね合いを考えると、「安価なCCDを使って高画質のカメラを設計する」というコンセプトで技術者が頑張ってくれる方が、消費者にはメリットが大きいのは当然です。
 逆に言えば、コンシューマ向けデジカメに「大サイズのCCDを使う」とか「出力特性の優れたCCDを新設計する」…なんてのは、「誰でも思い付くコストを無視した最も安易な高画質化手法」とも言えます。極論ですが、製品コストを無視してチップサイズの大きなCCDを使うのなら、バカでも高画質化は可能…と言ったら言い過ぎでしょうか?
 コストやデザイン、部品調達の容易さを考えて市販の汎用CCDを使って高画質カメラを作るからこそ、高度な技術が必要になるわけです。一例として、NikonはD1でカスタムCCDを使って高画質デジカメの製品化を実現しましたが、大幅な低価格化を図ったD100では汎用CCDを使いました。その結果については賛否両論ですが、私はデジタル一眼レフの販売価格を半額に落としたNikonの見識には敬意を表します。高性能と低価格の折り合いをつける…、これは企業姿勢としては難しい決断だったろうと推察します。

 新製品開発にあたって、技術者はまず最初に「開発コスト」「製品コスト」という枷(カセ)を嵌められます。デジカメに限らず、コンシューマ向け製品を設計・開発する技術者は、全てに渡って最高のパーツを使う…という選択肢を許されないのが普通です。「コンシューマ向けデジカメの高画質化」という課題に対して、「低コストで」という条件が加えられるのは当たり前のことで、だからこそチップサイズの小さいCCDを使いながらも、その他の部分のチューニングで高画質化を実現しようとするわけです。
 逆に言えば、「コストがいくら高くてもいいから高機能の製品を作って欲しい…」というのは、ある意味でお金持ちのセリフであって、一般ユーザーから見れば傲慢な話です。プロ向けの製品ならば「機能の絶対優先」はアリでしょうが、一般ユーザー向け商品なら、まずコストと販売価格をいかに下げるかについて考えることは、設計者や技術者にとって最も重要な問題のはずです。
 ライターの誰かが、デジカメサイトで高価なハイエンド機種を評価して「…大画素CCDを搭載したところに技術者の良心を感じる」などと書いていましたが、これは「製品の価格とサイズを抑えて…」という前提条件がなければ、良心でも何でもありません。

■大サイズCCDを賛美する人々

 大サイズCCDと大口径レンズを使った方が高画質で高ダイナミックレンジ…って、当たり前の話です。でもこれは、銀塩カメラの世界で各種ブローニー判などの中・大判カメラを信奉する人々の言い分と同じです。6×7や6×9、4×5などの中・大判カメラは高画質ですが、大きくて重いものになります。本体価格も高価になるし、交換レンズも高価です。商業写真の分野で使われる銀塩カメラの主流が、中・大判カメラから35o一眼レフへと移行してきた経緯は、誰もが知るところです。
 また、重くて大きいカメラを持ち歩くことが苦にならない…という人は、やはり「大多数の一般ユーザー」ではありません。プロ、アマチュアを問わず「カメラ、または写真を撮るという行為に何らかの思い入れを持った人」です。
 私は、「写真を撮るのは子供の運動会と旅行に出かける時」…というような、ごく普通の人を対象として考えた時、「重くても大きくても、そして値段が高くても、カメラは高画質のほうがよい」というような発想は、絶対に出てこないと思っています。
 現行の技術で見る限り、大サイズCCDを賛美する人は「デジタルカメラは、ある程度重くて大きくて高価でも構わない」と思っている人…と同義であり、それは「普通のユーザー」の感覚ではありません。

■閾値はあるの?

 さらに、例えば「1/1.8インチで400万画素は許容できるが、1/1.8インチで500万画素は許容できない…」というような論理展開では、その線引きの理由が曖昧です。CCDの受光キャパシティというのは、ある意味でリニアに増減します。十分なダイナミックレンジを確保し、よい画像を出力するために必要な画素ピッチ…などいう判断は、明快な閾(しきい)値があるものではないのです。極小画素CCDを批判する文章などによく書かれている「画素ピッチが3μはダメで4μならOK」とか、「3μはギリギリで許容できるが2.7μは問題外」…などという判断基準は、いったいどうやって設定しているのか…理解に苦しみます。
 それほどに高画質を望むなら、1/1.8インチの500万画素はダメだが1/1.8インチの400万画素なら許容できる…なんて半端な妥協しないで、声高に「500万画素なら最低でも35oフルサイズのCCDを使わなければ、まともな画像は得られない」とでも主張すればよいはずです。
 画素ピッチが小さいCCDを非難し、大サイズCCDの採用を望むユーザーも、結局はどこかで製品コストや製品サイズの問題を考えて妥協しているわけで、そのあたりの議論がもっとあってもよいと思うのですが…

 ところで、「大きなチップサイズ」というと必ず話題になるのが35oフルサイズCCDの話です。これについてはこちらを参照して下さい。

■素直に製品メリットを甘受しよう

 もっと単純に考えたらどうでしょう。例えばある機種が1/2.7インチで200万画素のCCDを採用していたとします。これを同じチップサイズの300万画素CCDに置き換えた場合、「画素数(解像度)がアップすることによる画質向上のメリット」と、「画素ピッチが小さくなったことによるノイズの増加やダイナミックレンジの低下のデメリット」とを比較して、メリットがデメリットを上回れば、それはそれでよいのではありませんか?
 当たり前の話ですが、メーカーは画素ピッチが小さくなることのデメリットをできるだけ抑えるため、ノイズ除去やダイナミックレンジ補完のための、せいいっぱいのチューニングを施してくるでしょう。その上でなおかつ、極小ピッチ化による欠点も浮き彫りにはなると思います。また、「厚化粧」による高画質化は、本質的な欠点を覆い隠すものかもしれません。でもそうした欠点は、90%以上の一般デジカメユーザーにとっては、画素数アップによる高画質実現のメリットを上回るものではないと思います。
 私は、ここ1年間ほどの間に登場するデジカメの新製品を見ていて、画素ピッチが小さくなったことによって「素人目に見ても明白に画質が低下した」という例を知りません(ここで言う素人とはデジカメユーザーの大多数を占める一般ユーザーの話です)。一部の評論家やハイアマチュアユーザーなどが、等倍表示した撮影画像の実に細かいところを見て騒ぎますが、一般ユーザーの大半にとっては画素数の向上によるメリットの方が大きいのでは…と言える程度の「ささいな欠点」ばかりがクローズアップされているように感じます。大多数のユーザーにとっては、「画素数アップによって大判プリント時にシャープになった」といったメリットの方が、歓迎されているでしょう。
 第一、モニタ上で等倍画像を見てチェックする人なんて、まずいません。またプリンタによる出力だって、2Lサイズ程度が一般的なはず。インクジェットプリンタで頻繁にA4サイズに印刷している一般ユーザー…なんて、非常に少ないでしょう。用紙代とインク代で、べらぼうな印刷コストが掛かりますから…

■小難しい理屈を捏ねるヤツほどロクな写真を撮らない

 雑誌の製作現場に携わっている私が知り得る範囲では、相当な高画質の画像を要求されるグラビアページ用の写真ですら、300〜400万画素程度のコンシューマ用デジカメで撮影されている例がかなり多い状況です。デジタル一眼レフだけでなく、コンシューマ用デジカメを併用して商業用写真を撮影しているプロカメラマンは、現実にかなりたくさんいます。コンシューマ用デジカメで撮影した画像は、ごく当たり前のように商業雑誌で使われています。こうした商業雑誌に掲載される写真の画質に文句をつける人には、ほとんど出会ったことがありません。普通のデジカメユーザーが、いったいどんな被写体を撮るために、また撮った画像をどんな用途で使うために、CCDのチップサイズなどを気にするのでしょうか? 私にとっては、大いなる「謎」です。

 デジカメの性能について滔々と語るのは全く自由ですが、デジカメの性能を極限まで引き出して写真を撮影する…そんなシチューエーションはそれほど多くありません。例えば、いくらマニュアルで撮影しても、デジカメが内蔵する程度の露出計測機能を使うだけで完璧な露出の画像を撮ることなど、ほとんど不可能に近いはずです。屋内撮影時だって、入射光式露出計を含めて完璧なライティングが可能な機材や環境を持っている人は少ないと思います。また、手持ちで撮影する場合、厳密な意味で手ブレがゼロなんてのも考えられません。いずれにしても、マニュアル撮影機能をフルに活かして高画質画像を得るノウハウと実践的な撮影技術を持っているユーザーは、デジカメユーザーの中では小数派どころか、全デジカメユーザーの5%にも満たないでしょう。
 また、こうした技術的な要因もさることながら、いつも言っているように「よい写真」なんてものは、人によって基準や尺度が異なります。個人的には、完璧な露出とフレーミングで撮られた非常に高画質の「ただの美しい花の写真」や「ただの美しい風景画像」を見ても感動しませんし、別に「よい写真」だなんて思いません。
 「極小画素CCDの採用はデジカメをダメにする」などと、デジカメに関するウンチクをえらそうに語るヤツに限って、ロクな写真を撮っていないに違いない…と、私は思いっきり偏見の目で見ています(笑)。



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