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ライターというお仕事  その1   2002/7/12

 私は職業を聞かれると、「ライター」または「著述業」と答えることがあります。日常の仕事の中で「雑誌や単行本の原稿を書く」という部分は、作業時間的には一定の位置を占めています。積極的にライターの仕事を受注しているわけではありませんが、興味がある分野に限っては、依頼があれば原則として断わらない…というのが基本スタンスです。むろん私は「有名ライター」ではありませんが、現時点では毎月コンスタントに複数の雑誌に合計10数ページ分程度の原稿を書いていますし、ここ数年は毎年1〜3冊の単行本の執筆を手掛けており、共著も含めてこれまでに7〜8冊の単行本を書きました。また広告関係のライター、いわゆるコピーライターの仕事も受注しますし、依頼があればゴーストライターもやります。さらに最近は、Webマガジンやメルマガ向けの原稿を書くこともあります。
 とは言え、依頼があれば「何でも書く」…というわけではありません。一応「実績がある得意分野」があるので、あまりそこから外れるジャンルの仕事はしません。つまらない仕事はやりたくないし(僭越な話ですがライター業だけで糧を得ているわけではないので…)、また依頼者側から「何でも書くライター」と思われることは、営業戦略上、不利になることもあるからです。
 私のオフィスでは単行本の出版企画や雑誌記事の企画などを「業務」として受託しており、私以外にももう1人、ライターが在籍しています。実は、こうしたライティングの仕事がオフィス全体の収入に占める割合はごくわずかなのですが、気分転換になる面白い仕事でもあり、またいろいろな分野の最新トレンドを知るための勉強にもなるので、けっこう楽しんでやっています。そういうわけで、私は一応「ライター」の肩書きを名乗っているわけです。本名で書いている単行本もありますし、ペンネームで書いている雑誌もあります。
 ところで、「…ライターと答えることがあります」などと曖昧な言い方をするのは、私は小さな会社の代表という立場上、原稿料や印税は法人としての収入となります。その法人から給料を取っている形なので、個人事業者が多い一般的な「フリーライター」のイメージとは少し異なる立場にあります。また、「ライター」としての仕事を社内スタッフによるチームワークで行うこともあり、その意味でも1人で全てをこなす一般的なライターとは仕事の形態を異にしています。
 さらに、単にライティングを行うだけではなく、会社として編集作業や製本まで含む媒体制作全般を受託することもあります。その他、コンサルティング的な仕事も多いので、これらの事情を加味した上で、自分の職業を聞かれると、ケースバイケースで答え方を変えるのです。
 こうした個人的な事情はともかく、世の中には「ライターって具体的にどんな仕事?」とか、「ライターって儲かるの?」という疑問をお持ちの方や、「フリーライターになりたいんだけど…」という若い方などもおられるかもしれません。そこで、ライターという仕事について、自分の体験をもとにその実態(原稿料の話など)を書いてみようと思います。


■作家とライターの違い

 どちらも「文章を書いて対価を得る」職業であり、その意味では「作家」と「ライター」に厳密な区分はありません。しかし、一般的なイメージとしては、小説にせよノンフィクションにせよ、「自分で選んだテーマで一定のボリュームの原稿を書く」のが作家で、「与えられたテーマで比較的短い文をたくさん書く」のがライター…と言えるでしょう。また、依頼されたテーマの原稿を書くことを主な生業としているのがライター…、という言い方もできます。そうは言っても、オリジナルの企画で単行本向けの長い作品を書くライターもたくさんいますし、逆に依頼されたテーマで雑誌原稿などを書く作家もたくさんいます。
 ともかくライターとは、「主に活字媒体向けに、モノを書くことを生業としている人」です。ただし、同じライターの中でも広告関連の仕事(いわゆるコピーライト)をしている人は、少し立場が違います。

■ライターの分類

 ライターと言っても、その仕事の種類やスタイルによって、いくつかのパターンに類型化できます。もっとも分かりやすいのは、そのライターの「出自」によって分ける方法です。普通ライターというのは、いきなりなれる職業ではありません。…というよりも、誰でもライターにはなれるのですが(文章が書ければ…)、仕事をもらえるわけではありません。そこで、「仕事を作り出せる立場にある人」が自然発生的にライターになることが多いわけです。ライターの仕事を作りだせる立場にある人…、つまりライターに仕事を発注する側の企業(出版社、編集プロダクション、広告代理店 etc.)に属していた人や、こうした企業になんらかの形で関係している人が、何かのきっかけでライターになることが多いようです。
 さて、以下に、書く内容とジャンルでライターを3種類に分類してみます(個人的な分類であり、一般論ではありません)。

(1)専門誌系ライター
 私がよく書くパソコン専門誌など、特定のホビー専門誌等の記事を書くライターです。自動車評論家、スポーツライター、ギャンブル系のライター、そしてトラベルライターなども、このジャンルに入ります。この分野では、「趣味が高じてライターになった」という人が多いのが特徴です。スポーツライターの場合は競技のプレーヤー出身という人も多いようですし、トラベルライターの中には世界中の秘境を旅行した経験をもとにライターになった人などもいます。
 対象ジャンルがニッチであればあるほど専門家が少ないので、知識を持っているだけでライターになりやすいのが特徴です。専門誌の編集者が独立してライターになるケースも多いようですね。
 専門誌ライターとは言っても、対象専門分野自体の社会的な認知度合いや社会的普及度合いに応じて、様々な媒体に書く機会があります。専門分野のライターが非専門分野向けの媒体から仕事を貰うと、原稿料が高くなる傾向にあります。反面、あまりにも一般化が進むとライターの数も増えて、「専門」であることのメリットが減ってきます。

(2)自由契約記者(ノンフィクションライター)
 総合誌や経済誌、一般週刊誌などの雑誌記者、または新聞記者が独立するケースが多いのが、この「記者」と呼ばれるライターです。「取材」という作業が多いのが特徴です。ジャーナリスト志望の人間がなることが多いのですが、その他にも大学の講師や助教授あたりがライターになるケースもありますし、評論家がライターになるケースなどもあります。文芸作家を志望する人も多いようです。そして、芸能記事を書くライターなんかもこの分野に入ります。
 社会問題や政治問題など硬派の記事を書くことが多いため、専門的な知識ととともに取材のノウハウや豊富な人脈も要求されます。もともと雑誌の記者などをやっていた人が独立してライターのなるケースが多いのも、そうした事情によります。一般の人がなりにくい分野のライターです。
 またこの分野のライターは、出版社からの依頼によって書くだけでなく、自らテーマを決めて依頼のない形で取材を進める事例もあります。それを出版社に売り込むなどして、単行本として出版する…というあたりを目指している人もたくさんいます。また、環境問題や医療問題、老人問題など比較的社会性を持つテーマを好み、自らを「ジャーナリスト」と称するライターが多いのも特徴です。いずれにしても、社会的ステータス(?)という面で見ると、比較的高いところにいるライターです。

(3)何でも屋ライター
 最近はカタログ系雑誌をはじめ、ジャンル分けしにくいサブカル系のニューウェイブな定期刊行物が増えてきました。また求人情報誌やグルメ情報誌のような情報系雑誌にも、様々な特集記事やコラムが掲載されています。さらに「Web媒体」も増えてきました。こうした様々な媒体で、ジャンルにこだわらず書く…というライターが増えてきています。「エロ系」の媒体も増えています。この分野は、若い世代のライターが多いのも特徴で、自らの感性やセンスを武器にして安い原稿料にもめげず書き続けているライターがたくさんいます。私の周囲では、特にエロ系媒体に関わっている若いライターにパワフルな方が多いようです。
 この分野のライターは、その出自が実に様々です。編集プロダクション出身者、出版社の編集者から独立した人もたくさんいます。「失業してブラブラしていたところをたまたま知人に誘われて」…、なんてきっかけでライターになった人もいます。数は少ないですが、「エディタースクール」やカルチャーセンターの「ライター養成講座」などを卒業して、出版社や編プロに自分を売り込んでライターになった人もいます。

■原稿料と印税

 「文章を書いて対価を受け取る」のがライターですが、ギャラの支払い方法には「印税」と「原稿料」の2種類の形態があります。
 まず印税は、単行本(ムックを含む)における代表的な契約形式です。売り上げの○○%という形で、印税の金額が決まります。パーセンテージは8〜10%が一般的です(岩波新書の印税は15%だそうですが、一般のライターでは10%を超える印税契約はめったにありません)。
 さて、ここで注意すべきは、書籍の売り上げではなく、正確には「書籍の単価×発行部数」に対して印税金額が設定されるということ。つまり、本が実際に売れても売れなくても、発行部数をもとに印税は算出されます。例えば本の定価が2000円、初版の発行部数が1万部だとすると、2000円×1万部=2000万円で、その10%であれば印税額は200万円ということになります。まずは初版分の印税が支払われ、本が売れて増刷ということになれば、増刷分の発行部数に準じた印税が追加で支払われます。まあ私の書く本など増刷しないものが大半なので、1万部もいけば十分って感じです。
 また、あまり一般的ではありませんが、「書籍の単価×発行部数」ではなく、「売れそうな部数を最低保障する」…というような形で印税契約が結ばれる場合もあります。例えば、実際に書籍を5000部印刷・配本しても、「最低保障印税は2000部分」というように、最初は2000部分だけの印税が支払われるのです。それ以上の印税は、実際に書籍が売れてから支払われます。こうした方法での支払いは、ライターの立場が弱い場合に結ばれるケースが多いようです。
 原稿料というのは、発行部数とは無関係に、書いた原稿の量に応じて支払われるものです。原稿料は、400字単位で設定するケースと、ページ単位で設定するケースがあります。総合誌や文芸誌、一般週刊誌やビジネス誌では400字換算で設定されるのが一般的。だいたい400字あたり5000円程度が基準ですが、下は2000円以下から上は1万円以上まで、かなり幅があります。個人的な経験では、連載コラムなどを任されると、文字数の割に高い原稿料が支払われることが多いですね。また総合誌や一般週刊誌などの原稿を書く場合、取材を伴う仕事が多く、この場合の取材費は一般的に依頼者(出版社/編集プロダクション)側が負担します。また取材経費が出ない場合は、取材込みということで通常の原稿料よりも高い原稿料が設定されることもあります。
 専門誌の場合は、一般的にページ単位で原稿料が支払われることが多いようです。パソコン雑誌を例にとれば、ページ単価が15000円〜25000円あたりが一番多く、これも下は10000円以下から上は30000円以上まで、かなり幅が広いのが現状です。大手出版社が発行する総合ビジネス誌やファッション誌などの場合、ページ単価はもうちょっと高くなることが多いですね。
 「ページ単位の原稿料」とは言え、雑誌の版形や組み、ビジュアルの量などによって文字数にはかなり差があります。一般的なB5〜A4の版形の雑誌の場合、少ないケースではページあたり800字程度にしかならないこともありますが、多いケースでは2000字近くになることもあります。ページあたりの原稿料が800字で1万円のケースと2000字で2万円のケースを比べると、前者の方がお得…ということになりますね。

■原稿料いろいろ

 さて、原稿料の差はどこからくるのでしょうか。高度な専門知識を持っていると原稿料が高い…という例はあまりないようです。まずは、ライターとしての「実績」と「経験」が加味されることが多いようです。専門誌の場合、実績の有無で50%程度の差をつけている例があります。さらに、既に他の分野で社会的な地位や名声を得ている人に対しては、かなり高額の原稿料が提示されることもあります。
 次に原稿料に差が生じる要因として、掲載される雑誌の版元(出版社)の規模の大小があります。これは、かなり大きな関連性があります。老舗の大手出版社の仕事は概して原稿料が高く、新興の中小出版社の仕事は概して原稿料が安い…という傾向はあります。
 また、書く対象の雑誌の発行部数によっても、原稿料に差が出ることがあります。発行部数が多い雑誌は予算も多く、原稿料が高めに設定されていたりします。
 どこから仕事が来るか…によっても、原稿料に差が生じます。雑誌の原稿の場合、大きく分けて2つの受注経路があります。1つは雑誌の版元(出版社)から直接仕事を受託する場合、もう1つは編集プロダクション(編プロ)から仕事を受託する場合です。一般的に、出版社から直接仕事を貰う方が、編プロから仕事を貰うケースよりも原稿料が高いことが多いですね。編プロというのは、出版社から雑誌1冊の編集・制作を丸ごと受託していたり、雑誌の特定記事の制作を受託していたりするわけで、多くの場合はライティングだけでなくビジュアル制作や取材・編集込みでページ単位の制作単価が設定されています。こうなると、どこかで経費を削減したいわけです。そこでライターに経費削減のしわ寄せがくる場合が多い…と考えてください。
 別格なのが「有名ライター」「売れっ子ライター」のケース。そのライターの名前が入った記事が掲載されるだけで雑誌が売れる…となれば、破格のギャラが提示されます。立花隆氏のような有名人は例外としても、パソコン雑誌分野などでも高額の原稿料を取る有名ライターが何人もいます。
 特殊な例として、「タイアップ広告」「記事広告」「パブリシティ」などと呼ばれる分野があります。企業がスポンサーになった記事で、一見すると普通の記事のようで実は広告…というヤツです。こうした記事広告の原稿料は、通常の原稿料とは異なり、広告分野のコピー料に準じて支払われるので、高額に設定されるのが一般的です。雑誌のライターにとっては「おいしい仕事」です。

 ところで、怪しげな編集プロダクションから仕事を受注し、ちゃんと出稿したにもかかわらず原稿料が支払われない…というトラブルもよく聞きます。また、いざ支払いの段階になって、当初約束した原稿料を大幅に減額された…という話もあります。フリーライターは弱い立場の人が多いので、こうした無法がまかり通るのです。ライターを取り巻く業界は、なかなかシビアな世界だということも認識しておきましょう。

■原稿依頼から提出まで

 雑誌(定期刊行物)の原稿を書く場合、一般的には締め切りの数週間〜1ヶ月以上前(対象号の内容の企画決定段階)に原稿の依頼が来ます。例えば、「○月号の○○○○という特集記事の原稿を依頼したい」…という連絡が雑誌編集部から入ります。特集記事の企画が大枠で決まっている場合は、まず企画を詰める段階から参画することになります。記事の内容が細部まで決まっている場合は、特に打ち合わせもなしで、すぐに書き始めるのが一般的です。その場合、内容、原稿の量(文字数)、締め切り日…が提示されます。またこの段階で「ラフ」(おおざっぱなレイアウト)も提示されることが多いですね。
 媒体によっては、先に細部まできっちりと誌面デザインが決まっていることもあり、章建て、リード、見出しの数や字数、各章ごとの文字数などが完全なレイアウト用紙とともに提示されます。
 さて、実際に原稿を書き上げたら、それを依頼先に渡します。最近の活字媒体は全てDTPで制作されています。ということは、原稿はデータで渡さなければなりません。データということは、書きあがった原稿はメールで送ることができるので、ずいぶんと楽になりました。最近では原稿依頼もメール、送稿もメール…というのが一般的です。データ形式としては、テキストデータで渡すのが一般的ですが、最近はWordのdocファイルでOKという例も多いですね。
 さて、送付した原稿は編集者が読み、デザインに合わせて流し込みが行われます。その段階で「著者校正」が送られてきます。ここでは誤字・脱字を校正するのはむろん、デザインに応じて細かく字数を調整する仕事なんかもあります。
 初校に次ぐ第二校は編集者が行なうのが一般的で、ライターの役割は普通は初校で終わりです。最後に青焼き校正を、編集者といっしょにチェックする場合もあります。

■ライターになるには…

 ライターを職業としたい…という人もいるかもしれません。ただライターになるだけなら、これは簡単な話です。名刺を作って肩書きに「ライター」と入れた瞬間から、あなたはライターです。しかし、ライターになることは簡単でも、仕事を貰うことはそれほど簡単ではありません。ましてや、ライターという仕事で食べて行くのは、非常に大変です。私だって、仮にライター業だけで生活するとなったら、原稿料で食べていく自信はありません。
 …というわけで、ライターの仕事を受注する方法、ライターとして食べていく方法…について書いた「ライターというお仕事 その2」へと話は続きます。





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