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低価格、低解像度デジカメを使って何が悪い?!

 この文章は、以前「低価格、低解像度トイデジカメのどこが悪い?!」というタイトルで書いた文章を、加筆・改変したものです。

 私は、安価な低機能のデジカメが好きです。トイデジカメも好きですし、カメラ付き携帯電話も好きです。型落ちの200万画素前後の機種も愛用しています。何か、トイデジカメやカメラ付き携帯電話、そして100万画素台の低価格デジカメあたりの機能、特に画質を、普及価格帯以上の本格的なデジカメの撮影画像と較べて「こんなものはデジカメの画像じゃない」、「しょせんはおもちゃだ」…と一言のもとに切り捨てる人が、けっこう多いようです。人がどんなデジカメを使おうと勝手です。全く、余計なお世話というものです(笑)
 「写真に何を求めるか」は、人によって違います。「安価な低機能デジカメはしょせんおもちゃだ」「カメラ付き携帯電話はデジカメじゃない」「高解像度・高ダイナミックレンジで色再現性に優れた高機能デジカメ以外はまともな写真は撮れない」…などという見解に対して、「デジカメの機能ばかりを優先することの無意味さ」を、あらためて明言したいと思います。


■トイデジカメやカメラ付き携帯電話は、日常ユースのデジカメとして十分に使える!

 私は、数年前にトイデジカメであるWS30を購入したときに「シャツのポケットに入るほど軽くて小さくて、バッテリーも長持ちするWS30は、なんて面白いカメラなんだろう」と、いたく感心しました。ただ、私はWS30を購入した時点で既に高画質のデジカメや銀塩カメラを所有していたので、「トイデジカメは、ある程度写真を知っている人には面白いもの」と考えていた部分があります。つまり、「高画質のデジカメと使い分ける」ということを前提に「トイデジカメは面白い」と考えていたわけです。
 結局のところ、低価格の「トイデジカメ」やカメラ付き携帯電話で撮影した画像は、300〜400万画素以上の一般デジカメの撮影画像と較べて、はるかに画質は落ちます。このサイト内でよく書いているように、S/N比ならぬ「コスト/画質比」という指標があるとすれば、1万円台半ばで購入できる型落ち200〜300万画素機は、トイデジカメやカメラ付き携帯電話よりもはるかにお買い得ということになります。

 しかし、私は最近考え方を変えました。…って、私が何を考えようと誰も知ったことではないでしょうが…(笑)。つまり、「日常的に使うデジカメがトイデジカメでもいいじゃないか」「唯一所有するデジカメがカメラ付き携帯電話でもいいじゃないか」、と思い始めたのです。
 確かにトイデジカメやカメラ付き携帯電話の撮影画像は、普及価格帯クラス以上のデジカメで撮影する画像とは比較にならないほどレベルが低い。そんなことは当たり前です。でも、トイデジカメやカメラ付き携帯電話の画像は、ある面では「写真を楽しむに十分」と考えるようになったのです。ただしここで言う「写真を楽しむ」には、「楽しむ」ということに対する考え方の問題があります。

 まずはっきりさせておきたいのは、画質の悪いトイデジカメやカメラ付き携帯電話だって、自分が撮りたいものはけっこうちゃんと写ります。一世代前のVGAのトイデジカメだって、人の表情でも景色でも、実によく撮ることができます。35万画素以上のCCDカメラを搭載した携帯電話なら、十分に楽しめる写真を撮ることが出来ます。最近普及し始めた100〜200万画素クラスのCCDカメラを搭載した携帯電話は、400万画素クラス以上の本格的デジカメのような精緻な画像は得られませんが、彼女や彼氏の笑顔や、旅行先で見た珍しい建物や看板などの画像を、実用レベルで写してくれます。写真を撮る目的によっては、それで十分ではないのでしょうか?

■写真を撮る目的と、写真の本質

 個人が写真を撮る目的、撮った写真を保存する目的って何でしょう? むろん、「画像記録としての写真」には、印刷媒体向けの写真や各種商業写真を始め、工事現場の記録写真から化学実験の結果の記録に至るまで、正確な色再現と高い解像度を持つ画像が要求される用途がいくらでもあります。
 でも、個人で撮る写真の目的の多くは、一言でいえば「目に写った一瞬の光景を切り取って保存しておく」ことでしょう。大半が「記憶の補助」を目的に写真を撮るわけです。こうした目的で撮影される写真は、人間が目で見た通り、または目で見た光景に近ければ近いほどよいわけです。そういった意味では、写真は「より写実的」であるべきだということになります。

 しかし、「人間が目で見る光景」というのは、実はそれほど情報量の多いものではありません。早い話が人間の目はさほど高機能ではなく、ある瞬間にそれほどたくさんの情報を見ることが出来ないのです。これは人間の目の機能というよりは「画像認識能力」の問題なのです。
 例えば、都会の風景の中に立つかわいい女の子を想定しましょう。その女の子を見ている時には、背景のビルや走っている車を見ていません。その女の子の写真を撮ろうと思った瞬間に、背景を走り去る車の色や車種なんか、意識しない限りは絶対に見てはいないのが普通なのです。下手をすると、女の子の顔を注視しているときには、どんな色の服を着ているのか、見ていないことの方が多いはずです。いや、どんなヘアスタイルだったかすら見ていないこともあるのです。実際に、自分がついさっき会ったばかりの人の服装を正確に思い出してみればわかるはずです。
 一般的に写真には、その解像度に関わりなく、普通は人間が実際に目で見ていない(目では見ているのに認識していない)情報までもが写っているのです。後から写真を見ると、「ああ、この時には背景にこんなビルがあったんだ」とか、「ああ、この人はこんなヘアスタイルだったのか」と、あらためて知るはずです。
 よくデジカメの解像度を比較するために、都市の風景画像を撮影して、遠くのビルの窓の部分だけを拡大してディティールのシャープさを比較しますよね。実際に自分で都会の風景を眺めてみるとよくわかりますが、はるか遠景のビルの窓や看板の文字なんて、絶対に見ちゃいません。
 同じように、解像度を比較するために、女性のポートレートの「髪の毛1本1本が写っているかどうか」…なんてこともやりますよね。あれも現実的には無意味な比較です。普通の人間は、女性の顔を見ている時に髪の毛の1本1本なんて見ちゃいません。

 さらに、人間の視力には「中心視力」と「中心外視力」があり、例えば視力が1.0以上あるのは網膜の中心のほんのわずかな部分に過ぎません。網膜の中心部から外れると視力は急激に落ち、中心から10°離れた網膜上では視力は0.05程度となります。つまり、視野の中心部以外は「ぼんやりと見えている」に過ぎないのです。

 というわけで「女の子の表情を写したい」というシチュエーションでは、基本的には女の子の表情が写っていれば、写真を撮影した基本的な目的は達せられるはずなのです。背景の細かい部分が写っていようといまいと、大勢に影響はありません。こうした「写真を撮る瞬間に実際に見たもの」「自分が記憶したいと思った情報」だけを撮るためは、解像度や発色などの点でそれほど高いスペックのカメラを使わなくても、十分に可能なことです。
 そうした写真に対してさらに、背景もくっきり写っているとか、髪の毛が1本1本までくっきりと描写されている…とかを求めるのは、「よい写真の基準」が、「本来写真を撮る目的とは異なるところ」にあるからです。

■ダイナミックレンジ

 ついでに、ダイナミックレンジの話をしましょう。というのも、トイデジカメと高機能一般デジカメの解像度以外の大きな機能差の1つに、ダイナミックレンジがあるからです。
 WS30に代表される安価なデジカメでは、明暗の差が大きな被写体を撮影すると、明るい部分が白飛びしたり、暗い部分が黒つぶれしたりします。明るい空を背景に建物などを撮ると、空の部分が真っ白に写っていたりします。こうした点をもって、「トイデジカメの絵はダメだ」という人も少なくありません。
 明るい部分と暗い部分を同時に写す能力を、「ラチチュード」と言いますよね。デジカメにおいては、いつもこの「ラチチュード」が大きな問題となります。いわく「デジカメは銀塩フィルムよりもラチチュードが低い」、「サイズが小さいCCDはラチチュードが低い」…という話になるのです。
 ところで、人間の目は「対数変換型イメージセンサ」に近いと言われす。つまり入ってくる光量が2倍になると2倍の明るさに感じるのではなく、入ってくる光量が10倍になると2倍の明るさを感じる…ということです。正確に対数的かどうかは別にしても、かなりこれに近い特性を備えていると言われます。だから人間は極端な逆光状態で、人間の顔も背景も同時に認知すると言われています。
 でも、この話は人間の目の機能を正確に表わしてはいません。
 正確に言うと、人間は視野の中にある明暗の差が大きい対象物を、それぞれ別個に見ています。つまり逆光状態にある視野の中では、「暗い顔」と「明るい背景」を交互に別々に見て、脳の中で合成しているのです。逆光状態にある人間を見るとき、相対的に暗い顔の部分は絞りを開けて見ます。明るい背景を見るときには絞りを絞って見ます。これを瞬時に切替えながら見るので、明るい部分と暗い部分を同時に見ることができる(ように認識する)わけです。
 だから人間の目の光学的な機能は、言われるほどダイナミックレンジが広くはありません。人間の認識能力がダイナミックレンジを補っているのです。
 はっきり言って、人間が自分の目で明るい空を背景に建物などをじっと見ているとき、背景の空は「白飛び」しているのです。空の部分の階調なんかは、人間の目にも見えていないのです。

 …ってことは、ダイナミックレンジ不足のデジカメを、そんなに非難することもないのでは…、と思うわけです。明るい背景をバックにした女の子を撮影するとき、要するに女の子の顔が写って欲しいわけで、背景なんか白飛びしていたっていいじゃないですか? しょせんは、実際に人間が目で見た瞬間だって、背景は見ていないのだから白飛びしているのと同じことです。

■記憶で補う

 こうして見ると、実際に写真を撮った場面で見ていなかったものまで写してしまう「高画質写真」は、人間の目の機能、人間の認識能力を補う存在でもあります。
 反面、写真では人間が感じた「その瞬間」を写し撮ることができない部分も多いのです。人間は「ある瞬間」を記憶に留めようとするとき、その場の雰囲気や空気感、匂いなど、五感を総動員して、感じようとします。写真は、ある瞬間に人間が見ていないものまで撮影しますが、こうした人間が五感で感じる情報までもは写すことが出来ません。
 こうした五感で感じる部分も何とか写真の画像情報に入れようと苦労する人たちが「プロ、またはセミプロの写真家」であり、彼らは、本来は人間の目では見えないはずの情報までをも画像に加えることで、五感の情報を表現しようとします。これがよく「空気感」などといわれるものの正体です。
 写真には、こうした「付加情報」が本当に必要なのでしょうか。いや、精緻な表現で空気感まで写すことはすごいことだとは思います。でも、そんなものは必要がない…という写真のあり方も、認めるべきでしょう。

 写真には、撮影時に記録可能な全ての画像情報が写っている必要はありません。幸いなことに人間には「記憶」があります。記憶は写っていない部分を補完することができます。青空の下で行われた運動会で、子供がゴールした瞬間を撮ったとします。例え、「湧き上がる歓声」や「すがすがしい秋晴れの下の空気」などが写っていなくとも、写真を見ることで、それらの撮影時の状況を思い出して感慨に浸ることができる…、それが人間の記憶です。
 だから、写真はそれほど高解像度でなくとも、背景が隅々まで写っていなくとも、多少手ぶれしていても…、要するに走り終えた子供の弾けるような笑顔が写っていれば十分だと考える人は多いと思います。

■体験の記憶と想像力で補う

   他人の写真を見る場合でも同じです。人間は体験に基づいて、写っていない情報を補うことが可能です。既知また既視のものは、例えそれがはっきり写っていなくとも写っているように見ることができますし、未知のものは想像を働かせることができます。これは形状の情報だけではありません。色の情報だって体験と想像でわかるのです。
 こうして細かい部分は体験や想像力で補うことができるので、肝心なものがそこそこ写っていれば、多少粗い写真からでも違和感なく情報を得ることができます。

■安価な低機能デジカメでも「写真」は撮れる!

 というわけで、結論としては、トイデジカメはむろん、低価格の100〜200万画素機種など「低解像度で色再現性や階調表現能力が低いデジカメ」でも、「個人が記録したい一瞬を切り取る」という用途には全く問題なく使えます。
 多くの場合、個人が「記録」を目的に撮影する写真は、隅から隅まで高い解像度で詳細に記録・表現された画像である必要はありません(そういう画像を望むのであれば別ですが…)。恋人や子供など、愛する人の喜んでいる表情、旅行先で見かけた珍しい風景…などがちゃんと写っていれば、それで十分なケースが多いはずです。

 WS30やCheez SPYZなどのトイデジカメは軽くて小さくて、どんな時でもポケットの中に入れて持ち歩け、邪魔になりません。ちょっと高画質のカメラ付き携帯電話を持っていれば、デジカメなんて持ち歩く必要はないかもしれません。小さくてポケットに入れておいても邪魔にならない130万画素のSONY「DSC-U10」なら、目的次第では400から500万画素クラスのハイエンドデジカメと大差のない画像が撮れます。ハイエンドデジカメの大半は大きくて重いので、いくら画質がよくても毎日持って歩く気には到底なれません。
 「写真」に求めるものは人それぞれ違います。小さくてかわいいトイカメラやカメラ付き携帯電話、そしてDSC-U10のような小型カメラが好きなら、そして気軽に持ち歩く使い方が好きなら、何も「デカくて重いけどよく写る普通のデジカメ」なんて買わなくてもいいじゃないですか。


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