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July 27, 2005
六カ国協議の行方
この1ヶ月、日記をほとんど更新しませんでした。「饒筆」な私ですから、別に書くことが苦痛になったわけでもないし、サイトの更新が面倒になったわけでもありません。この画像日記を書き始めて4年、これだけ長期間書かなかったのは初めてです。理由はいくつもありますが、オフィスの移転準備、会社の業務内容の見直しと体制変更、オフィス内の人間関係のトラブル、立て続けの海外出張、加えて体調の不良…等々、この1ヶ月はあらゆる面倒・災難が重なりました。それで、Webサイトなど更新する気が起きなかったのです。
ところで、北朝鮮の核開発問題を巡る六カ国協議が始まりました。こちらの記事には、「…日本は拉致問題を提起したが、米国を除く関係国の視線は冷ややかで『拉致外し』が顕著になっている…」とありますが、まあ当然でしょう。
頼みのアメリカは、拉致問題になどたいして関心がない。むしろ、朝鮮半島を安定させることで、経済発展著しい中国との安定した関係を築く…ことの方がはるか重要な命題となっています。中国にとっても事情は同じ。中国にとって地政学的に見る北朝鮮という国の存在の重要性は言うまでもなく、日本が拉致問題で騒ぐことに「日中戦争被害国としての生理的不快感」もあるでしょう。同じように拉致問題を抱える韓国ですが、これはもう「同朋意識」の方が上回っている上、過去の日朝関係の経緯からみれば「日本は余計な口を出すな」というところ。そして地域の安定化が経済的な権益につながる…という面では、ロシアもまた、朝鮮半島の問題を拗らせたくないのは当然です。
そして、アメリカに限らず、国際社会で有力な発言力を持つ他の国々、例えば欧州諸国や中南米諸国、西アジア諸国などにとっては、拉致問題など「遠い国の些細な出来事」です。それどころではないほど深刻な国内問題た地域紛争を抱えている国もたくさんあります。ましてや、拉致家族帰国直後のインパクトが薄れた現在、日本は拉致問題に関して「国際社会の圧力」という形で支援を得られる可能性は今後とも非常に薄い状況です。
結局日本は、今後は「自立した外交」によって、拉致問題を解決しなければなりません。
拉致問題解決にあたって、日本がもっとも頼みとするブッシュ政権は、現時点で拉致問題に対する関心は「本質的にない」はずです。何にでもホイホイとお金を出し、自衛隊もイラクに長期駐留させてくれる便利な小泉政権の命脈を少しでも長引かせる…という目的ならば、拉致問題に理解のあるフリもするかもしれません。しかし、小泉政権の命脈が尽きようとしている現在、別に日本の世論の関心を買うことなど、ブッシュ政権に全く興味がないのは当然でしょう。アメリカにとって極東の安全保障が重要だったのは、「ドミノ理論」が持て囃された1950~1970年代までの話。ソ連が崩壊し、中国が資本主義へまっしぐらの現状にあって、経済的な権益が少ない北朝鮮の問題は、「安定化」が第一目標となるのはよくわかります。経済的な繋がりが大きい中国との関係の方が、はるかに重要です。
こんな当たり前の話はどうでもよいのですが、アメリカが「北朝鮮は安定化が可能」と見ている理由については、アメリカに住んでアメリカ人とたくさん話した経験から、思い当たることがあります。
アメリカだけでなく、キリスト教国である欧米諸国の人々は、例えば「イスラム教」「イスラム教徒」に対する「不可解さ」や「畏怖心」みたいなものは確実に持っています。別に十字軍の記憶があるわけではないでしょうが、宗教的な理念から「自爆テロ」を平然と行う人々に対する恐怖はあります。この恐怖は、ある意味で彼らの「理解の範囲」を超えるものです。はっきり言って、キリスト教徒にとってイスラム教徒のメンタリティは「理解し難いもの」であり、最終的には「戦争」もやむを得ない…と考える人が多いのも無理はありません。
しかしアメリカは、おそらく北朝鮮問題は「戦争をしなくても解決可能」と見ているでしょう。アメリカの政権も議会も、そして「理性的にモノを考えるアメリカ国民」の多くにとって、北朝鮮の独裁政権のあり様は、イスラム諸国との軋轢と比べて「理解の範囲内」であるからです。
北朝鮮の独裁体制には、確固たる「理念」が感じられません。言い方を替えると、故金日成の権力を受け継いだ金正日とその取り巻きが「自らの権益を守る」ために独裁政権を布いているのであって、別に「主体思想」のためにやっていることではないのだと、世界中が知っています。
旧ソ連の後押しを受けて抗日戦争を戦い国家を造った金日成には、まだしも「良き共産主義国家」への理念があったのかもしれません。しかし、その故金日成の権力を受け継いだ金正日とその取り巻きにとって、いまや「既得権益の維持」のみが関心事であり、言ってみれば手に入れた権力とそれに見合って得られる享楽を手放したくない…ことのみが、現在の政権を必死に維持している唯一の理由でしょう。
アメリカや欧米諸国が、こうした「既得権益の維持」のための独裁政権ならば、「戦争などしなくても何とかなる」…と思うのは、無理もない。
欧米諸国にとっては、イスラム教に限らず「理解できない理念」ほど面倒で怖いものはありません。そういう意味では、欧米諸国は植民地にしたアジア各地でも酷い目にあっています。アメリカを見れば、「特攻という自爆攻撃をも辞さなかった狂気の天皇制国家」(念のために書いておきますが、私がそう思うのではなくアメリカの人間の多くがそう思っていると書いただけです)…であった日本との戦いに手こずったことは嫌な記憶でしょう。そして、ベトナム戦争では、信じられないような量の爆撃と近代兵器による攻撃の下で、縦横に地下トンネルを掘り、ジャングルでは神出鬼没のゲリラ戦を展開する解放戦線と北ベトナムに、見事に敗北しました。アフガニスタンでは、旧ソ連が「ベトナムの二の舞」を演じました。
もし北朝鮮が「国家を挙げて理念としての主体思想を信じている社会主義国家」であったとすれば、欧米諸国は「戦争に頼らない安定化」なんてお題目は持ち出しません。現在の北朝鮮の戦力ならば、戦争という手段を解決に用いることも考えるでしょう。むろん、戦争になっても自らの領土に被害が及ぶことはありません。今回、要するに北朝鮮は「ちょっと物質的な援助をしてやり、その後徐々に民衆の生活レベルを上げてやっていけば現政権は自然に自壊する」…、その程度の国であり、その程度の政権だと見られているのです。
まあ、どちらにしてもイラク問題で手いっぱいのアメリカには、北朝鮮と本気で事を起こす気はまったくないし、そんな軍事的・経済的余力もないでしょう。そうなると日本は、本気で「北朝鮮強硬論」を唱え続けることが、ある意味で「単独で北朝鮮と戦争する覚悟」が必要になるということです。日本が北朝鮮と戦争をする…というのは、確実に「多大な犠牲」が想定されます。東京など大都市ゲリラ戦をやられたり、原発や鉄道などのインフラ施設が次々とテロ攻撃の対象とされる可能性も高く、そのような戦争に「日本という国が耐え得る」とは到底思えません。日本が参加する対北戦争では、欧米諸国に被害は及ぶことはないでしょうが、日本だけはほぼ一方的に大被害と膨大な死者を出す可能性があります。そして同様の可能性がある韓国は、絶対に参戦する可能性はありません。
それにしても「嫌韓」「嫌中」を基本理念とし、「対北強硬論」を展開する「民族派」の方々にとっては、困った事態でしょう。別に揶揄しているわけではありませんが、アメリカの後ろ盾なく、しかも中国・韓国すら「精神的な敵」に回ることを前提、北朝鮮と「戦争」覚悟で外交交渉を続けることなど、この国に本当にできるとは到底思えないからです。
六カ国協議に期待する拉致被害者のご家族の方の悲痛な声が、連日TVニュースで伝えられます。しかし、事態が何も進展しないであろうことは、ほぼ間違いない。私は本気で拉致問題を解決するためには、「対北強硬論」をやめて「北朝鮮の民主化」を図った方がかえって早い…と思います。まずは、資本主義の象徴である「物質文明」を北朝鮮に流し込める体制を作りましょう。豊かな生活に慣れると「国家に対する忠誠の理念など簡単に吹き飛ぶ」ことは、戦前・戦後の日本社会の意識の変革を見ればすぐにわかることです。渋谷のセンター街でコンビニの前で車座になってしゃがみ込む若者たちや、平然と援助交際をする若い女性たちを見ていると、戦時下の同年代の純粋な軍国少年のメンタリティとの違いはいったい何がもたらしたのか…、一目瞭然です。
投稿者 yama : July 27, 2005 04:41 PM
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