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2011年05月18日

●首都圏の汚染

 ひどいことになりました。人生の先が読めません。前にも書きましたが「まさか自分が生きているうちに、こんな事態を見ることになろうとは…」という気持ちが、ますます強くなってきました。

 大げさな話でもなく、むろん危険を煽るための話でもなく、常識的に考えれば、時間の問題で東京を含む首都圏は人が安心して住める場所ではなくなりそうです。いや現時点でも既に、東京は赤ちゃん、小さい子供のいる家庭が安心して住める場所ではありません。
 ようやく文部科学省が公開したWSPEEDI情報によれば、関東・静岡・山梨のほぼすべての地域が、チェルノブイリの汚染区分でいう「第3区分(放射線管理エリア)」に入っている可能性があります。
 いまや、東京の放射能汚染による危険度は、福島県と大差がないと考えています。WSPEEDI情報によって、また福島第一から約300km離れた神奈川県南足柄の茶葉から高濃度のセシウムが検出されたことによって、多くの人が首都圏の土壌も相当に汚染しているという事実を知ったでしょう。住民のパニックと経済活動の停滞を恐れる東京都は、公式な土壌の線量測定を行なっていませんが、民間団体・研究機関の調査では、東京都内各所の土壌から高濃度の放射性物質が検出され続けています。ジョージア大学のダラス教授の調査では、江東区豊洲で福島県郡山市の数値よりも高い線量を計測しています。近畿大の調査では江東区で放射性セシウムの濃度が1㎡あたり3千ベクレルを超えていた…との報道もありました。
 さらにその上、福島第1原発からは今なお毎日「154テラベクレル」の放射性物質が放出され続けており(海に放出される汚染水を除いても)、「放射能ダダ漏れ」に関しては事態収拾の見通しは全く立っていません。東電の工程表など誰も信じておらず、今後数年間に渡って放射性物質の放出が続くことはほぼ確実です。今後、この広範囲な土壌汚染は日を追って濃度が高まるわけで、1年後に東京を含む首都圏が「人の住める場所」であるかどうかの予測すらつきません。むろんこれは、今後福島第一原発で水蒸気爆発や再臨界などの破局的な事態が起こらない前提での話であり、そうした事故が起こる可能性に加えて、余震・台風等による原子炉や格納容器の更なる破損の可能性もあるわけです。事態の推移次第では、ヨウ素やセシウム以外にも有害な放射性物資が拡散するかもしれません。これらを考え合わせれば、今、福島原発からわずか200kmしか離れていない首都圏に住み続けている方がおかしい…のかと、真剣に考えてしまいます。

 首都圏が人が住めなくなるほど汚染される…ことの衝撃は、日本という国の存在の根幹を揺るがすものです。東京都市圏(一都三県)のGDPは、日本全体のGDPの1/3以上に達します。
 ただ、今後首都圏が、仮にチェルノブイリ「第2区分(移住可能エリア)」レベルの汚染状態になったしても、実際には人は住み続けるでしょう。また政府のメンツもあって、首都の移転は当面はないでしょう。東京や横浜、千葉市やさいたま市の人口が急激に減るとは考えられません。市街地の一部が既にチェルノブイリ「第1区分(強制移住エリア)」に相当する汚染に見舞われている福島市や伊達市、郡山市ですら、大半の人が「避難」や「移住」を躊躇っています。これは何も、多くの人が政府や御用学者による「安全キャンペーン」に騙されているから…というわけではなく、誰もが、避難や移住をすると「食べていけなくなる」からであることは間違いありません。仮に、「安全キャンペーン」を信じる人がいたとしても、それは「食べていくためには避難できない、だからこの程度の放射能なら安全であると信じたい」…という意識が働くからでしょう。

 しかし、今後、首都圏がチェルノブイリ「第2区分」程度に汚染されるとなると、例え首都圏から離脱・移住する人間が少数に留まったとしても、経済的には非常に大きなダメージを受けます。
 まずは、土地取引の事実上ストップと地価の暴落です。日本全体の地価合計の半分近くを占める首都圏の地価の暴落によって、メガバンクを含む金融機関は決定的なダメージを受けるでしょう。資金繰りがつかなくなった企業の設備投資も止まります。むろん、汚染を嫌う企業の首都圏脱出が相次ぐでしょう。首都圏から関東北部にある生産拠点の海外移転も加速します。全ての外資系企業は、事実上首都圏から撤退していきます。こうした動きが、さらなる経済の停滞を招き、首都圏の商業、サービス業は壊滅的な打撃を受けるでしょう。特に中小・零細企業や飲食業などは、大半が経営が立ち行かなくなるはずです。生活のために避難を留まったはずの人々が、結果的に生活できなくなるケースが増えてくるはずです。そして、福島原発により近いエリアからの人口流入が相次ぎ、経済の停滞と失業者の急増に伴って東京の一部がスラム化するなど、一気に治安が悪化する可能性もあります。将来に対する不安感の増大が、治安の悪化に拍車をかけるかもしれません。そして、こうした状況の中で発行し続ける国債が紙切れになり、円が暴落し、ハイパーインフレが起こる可能性すらも否定できません。
 こうした事態に対して、国が、政府が、何らかの有効な手立てを打てるとは思えません。政府や官僚が無能だから…という理由以上に、おそらくは日本という国の現在の「国力」、すなわち「経済力」が、こうした事態に対応できる力を持っていない…と思うからです。「日本人には耐える力がある」「日本には底力がある」と国を信じている人もいるでしょうが、何事にも「限度」があり、今回の事態は「国力の限度を越えた」と理解しています。

 汚染範囲が拡大するにつれて、北海道を除いて関東以北、東北までの広範囲なエリアで、農・畜産・漁業は壊滅するでしょう。デタラメに基準値を緩めて国民に無理に汚染野菜や汚染肉、汚染魚を食べさせている現状も、まもなく行き詰ります。放射性物質が降り積もった土地で農業を再生できるような「土壌の徐染」が本当に可能なのかよくわかりませんが、少なくとも10年単位で、北関東、南東北での農・畜産業は不可能になります。ここでも大量の失業者が生まれ、これはむろん、東電や国が所得保障、生活保障できる範囲を遥かに超えるでしょう。

 一時は、真剣に東京離脱を考えていた私ですが、今はこの汚染された地に可能な限り踏み留まって、行く末を見てやろうとも思い始めました。何だか「一時期繁栄を誇った文明の末路を見届ける」といった心境です。まあ、自分は放射能に対する感受性がかなり低くなった年齢だからこそ、こんなことが言えるのかも知れません。また、可能な限り内部被爆を避ける手立てを尽くすつもりですし、この年齢でも本当に危険になったと判断したときは、国に殉じるつもりは全くありません。ただ、千葉県北部の、かなり高い線量が検出された「ホットスポット」にある公立病院で小児科医師として働く長男は、当面は今の職場で勤め続けるとのことで、心配しています。また、原発から南西90kmにある家人の実家でも深刻な土壌汚染が進んでおり、特に中学生の従姪の健康が心配です。