« 真夜中に聴きたい50曲 (26) | メイン | 徒然なるままに脱出ルートを考える »

2011年04月07日

●真夜中に聴きたい50曲 (27)

(27)The ByrdsHickory Wind」(ザ・バーズ:ヒッコリー・ウィンド)

 ロックの歴史を紐解く時、現在のロックの原型を1960年代のイギリスに求める見方は一般的です。まずは、アメリカで生まれたロックンロールを発展させる形で、アニマルズ、ザ・フー、キンクス、そしてビートルズやローリング・ストーンズなどが新しいロックサウンドを生み出しました。さらにブルースの影響を強く受けてブルースロック、ハードロックという分野のサウンドを確立したのがヤードバーズ、クリーム、ジェフ・ベック・グループ、そしてレッド・ツェッペリンらです。彼らをもってして、「現代ロックの主流の始まり」とする見方です。
 1960年代の終わり頃からロックを聴き始めた私自身も、概ねその通りだと思いますが、現代において主流となってるロック・ミュージックには、実はもうひとつのルーツがあります。それは、1960年代の半ばにアメリカで生まれたフォーク・ロックです。アメリカで60年代に隆盛を見たフォーク・ロックというジャンルでは、ボブ・ディラン、タートルズ、ママス&パパス、グラスルーツ、バッファロー・スプリングフィールドなどのミュージシャン、バンドが知られていますが、中でもこのジャンルの音楽の確立に最も貢献し、その後のアメリカン・ルーツ・ロック、カントリー・ロック、さらにはウェストコースト・ロックといったルーツロック系の流れを作ったバンドが「ザ・バーズ」です。ザ・バーズこそが、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングやイーグルスらへと続くアメリカン・ロック・サウンドのもうひとつの本流を生み出すにあたって、実は最も大きな役割を果たしたバンドの1つではなかったかと、私は思っています。

 ザ・バーズの結成が1964年で解散は1973年ですから、活躍した時期はほぼビートルズと重なります。そして、実際にビートルズの影響も大きく受けています。一部では「ビートルズとボブ・ディランをミックスしたサウンド」などといわれたりもしますが、実のところは、そんな単純なバンドではありません。特筆すべきは、そのメンバーです。結成時のオリジナルメンバーは、ロジャー・マッギン、ジーン・クラーク、デヴィッド・クロスビー、クリス・ヒルマン、マイケル・クラーク。1965年に「ミスター・タンブリンマン」が大ヒット。その後、サイケデリック・ロックやスペース・ロックといった当時のコンテンポラリーを目指した「迷サウンド」に走った時期がありますが、1968年にグラム・パーソンズが参加、ザ・バースはそのグラム・パーソンズのリードによってカントリーテイストに溢れたアルバム「ロデオの恋人(Sweetheart of the Rodeo)」を発表します。

 「ロデオの恋人」は、カントリー・ロックの傑作と言われる名アルバムです。そしてその中でも歴史に残る名曲として、後に多くのカントリー系ミュージシャンにも歌われたのがグラム・パーソンズが作り、自ら唄う「ヒッコリーウィンド」。むろん、リマスター版で、グラム・パーソンズの歌っているテイクを聴いてください。ゆったりとした心地よいサウンドと優しいパーソンズの声、美しいコーラスが心に染み入る曲です。

 さて、ザ・バーズですが、「ロデオの恋人」以降は、それほど大きなヒットアルバムを出すこともなく73年に解散します。60年代後半を通して時期によってサウンドも大きく異なるし、なんとなく掴み所がないバンドであることは確かです。しかし、在籍していたメンバーのその後の経緯を見れば、彼らがアメリカン・ロックの歴史にいかに大きな1ページを拓いたかがわかります。
 まず、グラム・パーソンズは「ロデオの恋人」発表直後に、クリス・ヒルマンと共にバーズを脱退、クラレンス・ホワイト、マイケル・クラークらとフライング・ブリトー・ブラザースを結成します。ちなみにフライング・ブリトー・ブラザースには、後にイーグルスを結成するバーニー・リードンも参加しました(このあたりの経緯は以前、グラム・パーソンズを取り上げた時にも書きました)。デヴィッド・クロスビーは、バーズ解散後にバッファロー・スプリングフィールドのメンバーらとともに、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングを結成します。クリス・ヒルマンは、フライング・ブリトー・ブラザーズの解散後にスティーヴン・スティルスとともにマナサスを結成。さらに1974年に、アル・パーキンス、リッチー・フューレイ、J.D.サウザーらとともにサウザー・ヒルマン・フューレイ・バンドを結成します。

 いずれにしても、ザ・バーズというバンドがグラム・パーソンズと出会って生まれた「ロデオの恋人」というアルバムは、ロックの歴史に残る名盤であると同時に、私自身が大好きなアメリカン・ルーツミュージック系のロック・サウンドの原点とも言える1枚です。

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL: