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2011年03月31日

●漠然とした不安

 間引き運転の通勤電車は今日も満員でしたが、待たされても混んでいても誰も文句を言わず、サラリーマンやOLが黙々と職場に通っています。職場では1日中FMラジオを聴いていますが、番組のパーソナリティが殊更に「元気に」とか「明るく」を連発しています。聴いていると、かえって暗い気持ちになります。まあ、東京は全体的に重苦しい沈黙に覆われているような気がします。あえて最悪の事態を考えないようにしているのでしょう。不安を持つ人々は、精一杯自制心を働かせて、日常生活を維持しているのでしょう。
 昨日明らかになった千葉県八千代市の浄水場の汚染隠しに代表されるように、政府もお役所も全ての情報をリアルタイムで公開する気は全く無いようです。私たちは、何が不安だと言って、情報を全て得られないことがいちばん不安なのです。買い占め、買いだめをするな…と言っても、政府やお役所が八千代市のような情報隠しをやっている限り、絶対に無理です。基準値以下であっても福島県や茨城県、千葉県産の野菜を全く食べない人が多いことを「風評被害」だといって怒る人がいますが、見当違いです。実は汚染されているのにそれを発表していない、意図的に全ての産地の土壌や野菜を検査していない…と誰もが疑心暗鬼になっているから、安全を見越して食べないだけのことです。
 食品から検出される放射能の安全基準値、水道水の安全基準値を、原発事故後に1桁書き換えたことを、今や誰もが知っています。政府がこんなデタラメをやっているから、誰も野菜を食べなくなるし、メネラルウォーターを買い占めたりするのです。

 また、常にネットで情報を収集し、移動中もスマートフォンを離さず、twitterをはじめとするソーシャルメディアを駆使して有益な情報を交換している「情報強者」なんて、実はホンの一握りの人間の話です。年配者を中心にネット環境とは無縁の人間もたくさんいるし、若くて携帯電話やスマートフォンを所有してSNSで遊んでいる人であっても、実は「情報弱者」の方が多いことは誰でも知っている通りです。社会階層という言い方が差別的だと非難を受けるのならば、「情報社会階層」なるものが存在することは、まったく周知の事実です。その情報社会階層で低いところに位置する人間、すなわち「情報リテラシーが低い人間」が、実は社会の大半を占めているのが現実です。そういった階層に属する人たちが、水やトイレットペーパー、ガソリンなどを買い占めすることを、情報リテラシーが高い人間、または自分で高いと思っている人間が、上から目線で批判しているのをTwitter上などで見かけると、ムカつきます。情報リテラシーが低い上に、政府やお役所からまともな情報を得られなければ、不安になって自己防衛の行動に走るのは当然です。

 実際のところ、いくら放射能を不安に思ったところで、東京脱出なんて大半の人にとっては不可能です。いや東京どころか、福島原発から50km~60km圏に住む100万人以上の人々だって、大半が自主避難なんてできないでしょう。仕事のこともあるし、子供の学校のこともある、何よりもお金の問題があります。住んでいる場所から長期間離脱できる人は、よほどお金に余裕がある人か、住む場所に関係なく仕事ができる「高いスキルを持つ自由業」「特殊技能を持つ人」ぐらいでしょう。世間の90%以上の人は、住む場所を簡単に離れることはできません。

 さて、原発の事態は深刻です。専門家も全く先が見えない状態です。大量の放射性物質が大規模に拡散する破局的な事態が起こるのか起こらないのか、どうすれば事態が収拾へ向かうのか、また事態の収拾に何年かかるのか、誰もわからないのが現実です。今回の事故とその後の経緯は、人類が初めて経験するものです。
 例え破局的な事態を回避できたとしても、当面の間、少なくとも数ヶ月以上は「放射能ダダ漏れ」状態が続きます。ダダ漏れ状態が年単位で続くかもしれません。いくら「直ちに健康に影響が無い」とはいえ、累積して浴びる放射線の量は、今後も徐々に増えていくのです。被災地の近くだけでなく、関東一円に済む数千万人の人々の間で、不安感は今後さらに増幅していくでしょう。外出や遊びを控える人が増える中、経営的に立ち行かなく飲食店や、倒産する中小企業も増加するでしょう。被災地でなくとも、収入が減る人、収入が途絶える人がどんどん多くなってくるでしょう。景気後退もあって、将来の生活に対する不安感は、今後日本中に広く蔓延するはずです。

 今はまだ、震災からあまり間が無い時期でもあり、震災の被災者を思いやる気持ちも強いので、誰もが黙々と日々の不安に耐えて生活しています。停電に文句を言う人もほとんどいません。
 しかし、震災から日が経つにつれて、震災のショックも薄らぎ、さらに避難所などに暮らす悲惨な被災者の状況も、多くの人にとって「日常のニュース」と感じるようになってくるでしょう。そうなった時が怖いのです。この東京を覆っている重苦しい不安感が、どのような形で放出されるのか、非常に気になります。
 原発が破局的な事態を迎える以前に、社会不安から何かが起こる…、私はそんな恐れを抱いています。既に被災地での犯罪の多発が報告されていますが、東京を含む関東圏の治安も、今後悪化するかもしれません。
 そして私は、こうした心配が杞憂で終わることを、心底望んでいます。

2011年03月22日

●普段どおりの生活

 依然として情報が不足しています。私が政府に要求したいことは基本的に、CNICのこちらのページに書かれていることと同じです。そして、twitterでも書きましたが、フランス、ノルウェーなど海外の気象関係機関が放射性物質の飛散シミュレーションを公開しているのに、日本政府が緊急時環境線量情報予測システム(SPEEDI)のシミュレーション結果を公開しないのは実に不可解です。

 東京・練馬区に住み、毎日池袋のオフィスに通っている私は、当然ながら現在の状況では、まだ東京から避難するつもりはありません。東京でも昨日来、数日前の3倍程度の放射線量が計測されていますが、まだ健康に大きな害をもたらすレベルではありません。クライアント企業との連絡も今のところ通常通りですし、特にキャンセルされた仕事も無い以上、仕事を続ける義務があります。自分の家庭でも、特に買い占めや買い溜めもしていません(スーパカブだけはガソリン4.5リットル満タンにしておきました)。
 ただ、今後、福島第一原発で核燃料の溶融(メルトダウン)、大規模な爆発、使用済み燃料プールからの放射能大量放出…といった事態に至り、東京上空に大量の放射性物質が降り注ぐという状況が予測される場合には、当然ながら東京から脱出することになります。こうした事態がいつ訪れるかわからないので、準備だけでもしておこうと考え、いくつかのことを実行しています。
 まずは、仕事関係です。私の仕事は基本的にネット環境があればどこでもできるのですが、社内のメイン端末内の大量のデータをポータブルHDDにバックアップして持ち出せるようにしています。また、ノートPCへのデータ移行も進めており、基本的には2台のノートPCと数台のポータブルHDDを持ち出せば、日本中どこでも仕事ができるように準備しています。
 クライアントのシステムを預かっているサーバーは、富山のデータセンターと東京のデータセンターに分散されています。当然全てがRAID構成で、さらに別のHDDにもバックアップする形になっています。しかし、特に東京データセンター分は、長時間大規模停電も含めて今後何が起こるかわからないので、オフラインのバックアップを作ろうとダウンロード作業も始めました。

 個人的には、移動中でも飲んでいる時でもリアルタイムで情報を得られ、家族も含めて誰とでも連絡を取れるように、バッグの中に複数の端末を入れて持ち歩いています。具体的には、ドコモ回線のWiFiルーター、iPod Tuch、au回線のIS05、ドコモのガラケーの3種類と、外部充電装置を持ち歩いています。先日の震災直後の徒歩帰宅体験以来、バッグも持ち歩きやすいようにKELTYの18リットルのデイパックに変えた他、靴もロックポートのウォーキングシューズを履くようにしています。デイパックの中には、バンドエイド、抗生物質、傷薬を入れ、さらにラジオ、LEDライト、予備電池、GERBARの小さなナイフも入れています。

 さあて、こんな生活がいつまで続くのでしょう。でも、毎晩飲むのはやめません。新刊書を買って読むのもやめません。できるだけ普段どおりに生活し、消費して、経済の活性化に少しでも貢献しようという気持ちは変わりません。

2011年03月18日

●震災後の日常雑感 その2

 ネット上の情報だけでなく、様々な企業(電力会社や原発製造関連企業も含め)に勤める人間や医師などの個人的な交友関係からも、可能な限り情報を集めていますが、現時点はまだ自分自身がどの段階でどんな行動をとるべきか判断できません。昨日以降の北風が強まる状況の中では、さすがに不安な気持ちも強まってきます。また、今朝のニュースで流れた「6400本の使用済み燃料」の話も含めて、情報がきちんと出てこない状況には苛立ちます。「この程度の放射線なら健康に害が無い」という言葉よりも、「その量をどれくらい長期的に浴び続けると健康に害が出るのか」、そして「現在の対処方法が上手くいって事態が収束したとき、どの範囲の人が、どの程度の期間、どの程度の放射能を浴びるのか」、さらには「現在の対処方法がうまくいかなかったときはどうなるのか」「妊婦や子供への影響はどうか」…といった本当に知りたい情報は、公的には全く流されません。
 こうなると、200km以上離れた東京に住んでいる自分自身の話は置いておくとしても、ほぼ50km圏にある郡山市や福島市、二本松市、ほぼ100km圏に入る会津若松市、喜多方市、そして政令指定都市である仙台市、山形市、米沢市あたりに住む人々、さらには東京と較べればかなり原発に近い150km以内にある水戸市や宇都宮市あたりに住む人たちですら、情報不足による不安と苛立ちが募っていると考えられます。
 多くの欧米系メディアの論調は、事故の現況から見て20Km圏の避難では不十分、最低でも半径50Km、半径100kmといった圏内の住民は避難すべき…が主流です。では、なぜ政府は50kmあたりまでの避難計画を実施しないのでしょうか。政府も、アドバイスする専門家も、最悪の事態を想定しても20km圏で安全だと考えているわけではないでしょう。できればもっと広範囲に避難を進めた方がよいとわかっているかもしれません。
 しかし、原発災害の際の避難対象地域は、現行の国の指針では、基本的に原発から半径10km圏内を想定しているとのことなので、政府にも東電にも今回の事故の規模自体が想定外で、実は半径20km圏以上、ましてや50km、100kmの避難計画などは、もともと存在しなかった可能性があります。さらに、50Km圏なら100万人、100km圏なら250万人の人が避難することになるわけで、そもそも現在の政府の能力では、移動手段も他県への受け入れ態勢も構築することが不可能な事態なのかもしれません。加えて、100km圏には、震災、津波の避難者がたくさんいます。避難所や被災地にはまだ食料も燃料も十分に届いていないというのに、そうした人たちを含めての大規模避難計画を立てることは、今の政府の行政能力では不可能のようにも感じます。
 どうも私たちは、根本的な行政能力、そして危機管理面での能力が大きく欠如した不幸な国に生まれてしまったようです。別に民主党が政権党でなくても同じだってでしょう。ここで政府や東電を批判・非難しても別に事態がどうなるわけでもないので、こうなると「自己責任」と「助け合い」によって国民が自らの命を救うしか道はありません。
 東京でも自己判断で避難を始める人が増えててきました。西へ向かう新幹線や飛行機はほぼ満席状態だそうです。今後は、国が新幹線や飛行機の座席販売を管理し、妊婦や子供の避難を優先する手法をとる必要があるかもしれません。
 オフィス近くの100円ショップの店頭で、箱に山積みした状態で放射能除けのビニールカッパを販売していました。あまりに凄惨な津波被害の光景に加えて、近所で放射能除けのビニールカッパを売っている光景を、自分が生きているうちに見ることになるとは思ってもいませんでした。

2011年03月15日

●震災後の日常雑感

 まずは、震災、津波の被害者の方にお悔やみを申し上げます。さらに、まだ瓦礫の中に生存者がいて、低下する気温の中で生命の灯火をかろうじて持ちこたえているかもしれないと思うと、やりきれません。自衛隊、消防団、海外からの救助隊、自らが被災者でありながら救助に参加している人々…、皆さんの努力には頭が下がりますが、本当にやきもきしてしまいます。
 三陸海岸は、私が最も好きな土地のひとつです。かつて何度も日記に書いたように、週末ごとにバイクでツーリングをしていた若い頃の私が、ロングツーリングに最もよく行ったのが三陸海岸でした。仙台から国道45号線を北上し、北山崎や田老などの北三陸から八戸に至るコースは、十数回は行っています。あの柳田國男「清光館哀史」で書かれた小子内あたりに見られるような、何でもない普通の三陸海岸の光景が、たまらなく好きでした。その三陸海岸に住む人々を襲い、気仙沼、大船渡、陸前高田、宮古、久慈といった都市から、名も無い海岸の集落、そして浄土が浜や北山崎の絶景に至るまで、人の営みと美しい風景を根こそぎ破壊した今回の津波は、言葉で言い表せないほど悲しい出来事です。

 そして、数日来情報が錯綜している原発事故については、東京に住む私たちも被害者になる可能性ができてきました。家人の実家が茨城県北部の福島県との県境にあり、福島第一原発からの距離は90km余りです。また千葉県北部の公立病院では、研修医の息子が小児科病棟で働いています。いまだ過酷な状況に置かれている被災者のことを思いやると同時に、そうした身内のことが気にならないといえばウソになります。
 確かに徒に不安を煽るのはよくないことでしょう。しかし、もし今の私に被爆被害の影響が大きい幼い子供がいたら、現時点で東海地方にある自分の実家へ非難させることを考えたでしょう。200kmを越えて重大な被爆被害が拡がったチェルノブイリの被災範囲を見ても、東京も含めて関東一円がかなり危険な状況にあることは間違いありません。ましてや先に挙げた家人の実家がある茨城県北部や、津波被災地でもある大都市の仙台あたりは、福島第一原発からの距離がわずか100km以下です。今後の事故の推移や風向き次第では、数十万人単位で生命に関わる大量の被爆者が出る可能性は十分にあります。
 今回の事故については、どう考えても情報が少な過ぎます。現場の状況、各地の放射能のモニタリング値、風向きとそれによる影響の被爆シミュレーション結果など、正確な生の情報がリアルタイムで欲しいと思っているのは、私だけではないでしょう。特に再臨界を起こす可能性と、起きた場合の被爆シミュレーション結果を、できるだけ早い段階で公表して欲しいものです。
 また、TVを見ていると、被災者に平気でマイクを突きつけるレポーターや、記者会見などで東電職員に怒号や罵声を浴びせる記者など、マスコミの粗暴で不快な振る舞いが目立ちます。確かに事実は知りたいですが、こんな時こそ粗野で無神経な振る舞いはやめて欲しいものです。

 そして、何できない自分はといえば、twitterにも何度も書いたように、できるだけ普通の日常生活を送ろうと考えています。普通に仕事をやり、仕事が終われば飲みに行き、好きな音楽を聴き、友人と語らい、そして通販で買い物をする…といった日常生活です。過剰な「自粛」はしませんし、友人知人と飲んで語ることが「不謹慎」だとも思いません。むろん、買占め、買い溜めもしません。ヨウ素とセシウムが検出されたという東京の空の下で、今夜も飲みに行く予定です。
 どうか、現場で作業する方々の不眠不休の努力と危険を顧みない勇気の結果として、再臨界という最悪の自体が避けられますように…