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2010年10月25日

●真夜中に聴きたい50曲 (20)

(20)Patty GriffinUp to the Mountain(MLK Song)」(パティ・グリフィン:Up to the Mountain)

 パティ・グリフィンは、最近は多くのシンガーにカバーされ、グラミーにもノミネートされるなど、アメリカでは高い評価を得ている実力派の女性シンガーです。私が好きな、エミルー・ハリスやルシンダ・ウィリアムスなどと並んでオルタナ・カントリージャンルのシンガーとして知られていますが、アコースティックな曲が多いのでフォーク系シンガーと思っている人も多いかもしれません。ジャンルなんてどうでもいいのですが、まあ広義の「ルーツ・ミュージック系」に分類すれば間違いのないところです。第一、彼女のアルバムは未だに日本版が出ていないはずで、これほどの実力派シンガーにも関わらず日本ではあまり知られていません。

 パティ・グリフィンは1964年生まれです。年齢から見ればかなり古くから活躍していてもよさそうですが、音楽シーンに登場したのは、事実上90年代半ば以降です。ファーストアルバム「Living With Ghosts」の発売は1996年ですから、これはもうかなり遅咲きのシンガーですね。私は、1999年に発売されたJulie Millerのアルバム「Broken Things」や2000年に発売されたEmmylou Harrisの「Red Dirt Girl」のコーラスに参加しているということで名前を知りましたが、実際に彼女のアルバムを聞いたのはさらに後の話で、実は2004年の「Impossible Dream」が最初です。その後、「Living With Ghosts」も購入して、とりあえず彼女の動向に注目していました。

 そんな実力派の彼女が、2007年に出したアルバム「Children Running Through」は、聴いて衝撃を受けました。個人的に今世紀に入って新しく聴いた数百枚のアルバムの中でも、おそらく十指に入る素晴らしいサウンドに溢れた完成度の高いアルバムだったからです。

 今回紹介するのは、その「Children Running Through」に収められている「Up to the Mountain」という曲です。この曲は、タイトルに「MLK Song」というカッコ書きがあります。そうです、あのマルチン・ルーサー・キング(Martin Luther King, Jr)が1968年の暗殺直前にメンフィスのメイソン・テンプルで行った演説の中の「I've Been to the Mountaintop(私は山頂に達した)」という言葉を題材にした曲なのです。
 アメリカン・ルーツ・ミュージックに根ざした、イアン・マクレガンのピアノで始まるシンプルで深みのあるサウンド、そしてまるで「祈る」ような彼女の歌声は、曲の題材もあって何だか黒人シンガーが歌うソウルのようにも聞こえてきます。真夜中にヘッドフォンで大音量で聴いていると、歌の世界に完全に引き込まれてしまい、今自分が何をしているのか、自分の存在そのものが無になるような状態に陥ってしまう…そんな「歌力」を秘めた素晴らしい曲です。

 この「Up to the Mountain」だけでなく、「Children Running Through」というアルバムは、パティ・グリフィンのずば抜けた歌唱力、表現力を味わえるだけでなく、ロック、カントリー、フォーク、ソウルなどのジャンルを越えたアメリカン・ルーツ・ミュージックの本質のようなものが溢れており、この種の音楽が好きな人なら必聴とも言えるものに仕上がっています。先に触れたピアノのイアン・マクレガン(Ian McLagan)を始め、参加しているミュージシャンも素晴らしく、「Trapeze」という曲ではボーカルでエミルー・ハリスが参加しています。

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