« バカ教師 | メイン | 校歌の話 »

2010年09月15日

●もっとWi-Fiを!

 予約しておいた新型iPod touchは出荷が9月末になりそうです。iOS4.1を搭載したこのiPod touch、巷間では「poor man’s iPhone4」と呼ばれているそうで、まったくその通りに違いありません。しかしカメラとGPS関係の機能差を除けば、iPhone4とほぼ完全に同等の機能を使える上、逆説的ではありますが、3G回線に縛られない分、通信料金やらキャリアの2年縛りやらを気にせずにかえって気楽に使えます。私のように、ドコモ回線につながるWi-Fiルーターを使っていれば、どこでも接続できますし、この手のモバイルWi-Fiルーターなど使わなくても、自宅と街中のWi-Fiアクセスポイントを利用するだけで十分だという人も多いでしょう。
 それにしても、私が最近思うのは、もっと大量の公衆アクセスポイントを設置しWi-Fi網を本気で拡大・普及させようという事業者が、なぜ登場しないのか…という疑問です。

 私の場合、現時点で確保している公衆Wi-Fiアクセス手段は3つです。まずは契約している既存サービスはNTT東日本のフレッツ・スポット、ソフトバンクのYahooBBです。さらにfonルーターを公開する形で使っていますので、全国のfonアクセスポイントと、fonが提携するライブドアのアクセスポイントを利用できます。この3種のアクセス手段を確保していることで、まあ主要なJRや地下鉄駅、さらにはチェーン系のファーストフード店のほぼ全部、そして東京なら山手線の内側のほぼ全域で(部分エリアですが)Wi-Fiアクセスが可能です。しかし、現実的に「いつでも、どこでも」Wi-Fiを使おうと思うと、これだけでは不足です。

 例えば私のオフィスがある池袋程度の規模の街ならば、繁華街の範囲は約2Km四方で、その面積は4平方キロメートルです。この範囲の50m四方のグリッドを設定し、各グリッドに1つのアクセスポイントを設置していけば、ほぼ繁華街全域で利用できる計算になります。4平方キロメートルは4000000㎡、50m四方は2500㎡、これを割れば合計1600のアクセスポイントでほぼ池袋の繁華街全域をカバーできるわけです。むろん、建物の影や建物の中など、グリッド内の全ての場所で使えるわけではないことは十分に承知の上です。しかし、あらかじめ十分にアクセスポイントの設置場所を計算すれば、路上を含めて相当広い範囲でWi-Fi利用が可能になることは確かです。こうしたやり方で、次々と全国の主要駅周辺や繁華街をWi-Fiネットワークで塗り潰していく形でサービスを提供することは、容易なはずです。

 一方で、街全体をカバーする広域公衆Wi-Fi網の整備計画は、2005年頃に米国のサンフランシスコやフィラデルフィア、シカゴなどで相次いで計画され、いずれも短期間で計画が頓挫した経緯があります。
 また日本でも、商用の公衆Wi-Fi網については現行サービスプロバイダ以外にも、かつて多くの事業者が参入し、そして採算ベースに乗らずに撤退していきました。現行の事業者も、より大規模なAP整備計画を持っていたにも関わらず、採算上の問題からエリアの拡大に踏み切れないでいます。
 米国でも、日本でも、Wi-Fi公衆網の普及が中途半端な状態になっているのは、採算性の問題です。まず、3G並みにアクセス不可エリアを無くすためには予想以上に多くのアクセスポイントが必要なこと、課金システムの構築に費用が掛かること、高額課金を是とするユーザが少ないこと…などから、投資に見合う採算が取れないということです。その結果、公衆Wi-Fi網の整備が2007年頃までの状態で事実上頭打ちになっているというわけです。

 しかし、2005~2006年あたりと2010年現在とは、実は状況は大きく異なります。言うまでも無く、iPhone、Androidに代表される急激なWi-Fi搭載スマートフォンの普及と、今後進むであろうタブレットデバイスの普及です。現在多くのスマートフォンユーザは、接続環境さえあれば3GではなくWi-Fiで繋ぎたいと考えています。何も3G並みのエリアを確保しなくとも、先に挙げたような主要な繁華街やビジネス街で路上も含めて、今よりももうちょっと広い範囲でWi-Fiが使えるのなら、それなりにお金を払っても良い…と考える私のようなスマートフォンユーザは多いでしょう。また、今よりもうちょっと広範囲でWi-Fiが使えるのなら、新型iPod touchなどを使って3G契約なしでスマートフォンを使う…というユーザも増えるはずです。さらに、音声通話もIPベースで…と考えれば、人口カバー率50%程度のWi-Fiネットワークが提供されれば、月額2000円程度のお金を払うユーザは相当数出てくるでしょう。

 加えて、Wimaxなど3.5G、3.9G、4Gと比較して、Wi-Fiが「こなれた技術」であることを忘れてはいけません。Wi-Fiは、最も低コストで無線基地局(AP)ネットワークを構築でき、低コストで安定した性能でしかも極限まで小型化された送受信モジュールを調達することができます。
 Wi-Fiなら、PC、スマートフォン、タブレットデバイス、携帯ゲーム機、そしてデジカメやSDカードに至るまで、どんな機器にでも簡単かつ安価に機能を付加することができます。IEEE 802.11a/b/g/nなどの相互接続性の認定を行っているWi-Fi Allianceによれば、認定を取得した機器は2009年に5億台を越えているとのこと。現在のスマートフォン普及の速度を考えれば、今後は年間1億台ペースでWi-Fi搭載端末は増えていくでしょう。これだけ莫大な数の端末が存在するのですから、ビジネスモデルによっては広域Wi-Fiネットワークサービスを提供しても採算可能なビジネスモデルは存在するはずです。一定エリア内でWimax網を整備するよりも、Wi-Fiメッシュを整備する方が、基地局インフラから端末まで含めた全システムの合計コストは安いはずです。

 特に、先に挙げた「音声通話もIPベースで」という話は、今後のネットワークビジネスの鍵となるはずです。アップルやAmazonに限らず、携帯電話キャリアの動向に依存せずに、端末販売、コンテンツ販売のビジネスを展開したい企業は多いはず。例えそこに「音声通話」へのニーズが加わっても、無線LANネットワークとIPベースの音声通話技術があれば、別に携帯電話キャリアと提携する必要はないからです。

 いずれせよ、もっと大量の公衆アクセスポイントを設置しWi-Fi網を本気で拡大・普及させようという事業者が登場することを切に願う次第です。

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL: