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2010年05月28日

●いまのところ、ロクな電子書籍がないけど…

 私は、電子出版に対して非常に大きな期待を抱いています。前回のエントリーでも書いたように、基本的には自分自身が電子出版の利便性を享受したいためですが、こうした期待とは別に、電子書籍プラットフォームの標準化進展に対して一抹の不安もあります。それは、著者が作品を直接販売できる…、つまり誰でも「著者」になれるし、誰でも「版元」になれるという…部分への不安です。

 そういえば、かつてDTPシステムが登場した時に「出版民主主義」という妙な言葉でもてはやされたことがありますが、実は電子書籍こそが本当の出版民主主義をもたらすわけで、事実amazon kindleによって個人が印税35%の電子書籍を出版できる状況が現実になっています。
 こうした状況を受けて、最近、電子出版、電子書籍を肯定・礼賛し、既存の出版事業への疑問を投げかける論評が増えてきています。こうした電子書籍と既存出版業界に対する典型的な問題提起はといえば、例えばこちらのようなものです。でも、ここで述べられている話の方向性は、私が望む電子書籍とはかなりベクトルが異なります。
 例えば、電子出版で先進的動きを見せ、それなりに実績を上げつつあるディスカヴァー21など、自己啓発本とビジネス書ばかりで、私が読みたいと思う本は1冊もありません。また、誰でも簡単に自分で作ったコンテンツを電子書籍として販売できるとなると、個人が持つちょっとしたノウハウやら、個人が撮影した写真集やら、ある種「個人Webサイトの電子書籍化」に近いものが氾濫するでしょう。どうでもいい啓発本、ハウツー本など、別の読みたくもない本、言わば情報エントロピーの低い「本」ばかりが溢れる可能性の方が高いような気がします。具体的に例を挙げるとは、日垣隆や小飼弾のような現在電子書籍で実績を挙げている著者の本など、私は別に読みたくもありません。

 昨日のエントリーで大手出版による電子書籍の刊行を望む…と書いたのは、私のような本好きは、電子書籍であってもやはり、きちんとした質の高い小説やドキュメントを読みたいからです。例えば、私が愛する翻訳ミステリー、S.J.ローザンの新作やマイクル・コナリーの新作を電子書籍で読みたいとなると、そこにはどうしても既存出版社の版権が必要になります。
 にもかかわらず、既存出版業界に挑戦する…なんて話で、勝間和代の啓発本みたいなどうでもよいコンテンツばかりが、有象無象の新興電子出版企業から書籍化されても、ちっともうれしくありません。実際にiPhone用のアプリの電子書籍ジャンルで現在読めるコンテンツなど、ロクなものがありません。

 そういえば昨日以降、ソニー、凸版、KDDI、朝日新聞の四社が電子書籍配信事業に関する事業企画会社を設立する…というニュースが話題になっています。これなど、講談社の他に小学館、集英社なども参加するようなので、かなり期待してしまいます。また、ソニーも現在欧米で展開している電子書籍端末「Reader」がE Inkを使った非常に読みやすく使いやすい端末なので、これをベースにした読みやすい電子書籍端末を国内向けにも提供しくれると、期待しています。

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