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2010年03月09日

●真夜中に聴きたい50曲 (17)

(17)The BandIt Makes No Difference」(ザ・バンド:同じことさ!)

 ザ・バンドの曲で最高の1曲を…とか、いちばん好きな曲を…などと言われても、とても挙げることはできません。むろん、最高のアルバムを…と問われても答えることができません。それほどに私はザ・バンドが好きだし、高校時代以降、入手可能な彼らの音源の全てを何十年間も繰り返し聴き続けています。そんな彼らの曲の中で、「1人で真夜中に聴く曲」として最もふさわしいのがこの「It Makes No Difference」と思った次第であり、そしてこの「It Makes No Difference」が収録されているアルバム「Northern Lights Southern Cross」(邦題:南十字星)は、彼らのアルバムの中では「1人で真夜中に聴く」にはもっともふさわしいのではないかと思う次第です。

 1975年に発表された「南十字星」は、翌1976年にライヴ活動を停止するザ・バンドの「現役最後のアルバム」と呼んでもよいもので、全曲をロビー・ロバートソンが書いています。私は、ザ・バンド解散の経緯の中でロビー・ロバートソンが果たしたネガティブなやり方は好きではないし、その後ソロになってからのロビー・ロバートソンが明らかに精彩を欠いていたことも、なんとなく解散の経緯との関連で考え、ザ・バンドのメンバーの中で、彼のことだけはどうしても好きになれません。でも「Northern Lights Southern Cross」は、傑作と言われる1968年の「Music From Big Pink」や1969年の「The Band」など初期のアルバムとはまた違った意味で素晴らしい出来で、ザ・バンドの代表作の1つだと言ってもよいと思います。このアルバムには、レボン・ヘルムを除く他のメンバー全員が「カナダ人」でありながらアメリカのルーツ・ロックを追いかけ続けてきた彼らのアイデンティティ(のようなもの)の告白が含まれており、曲にも歌詞にも漂泊の人生が持つ悲しみや人との出会いの暖かさ…といった、心に沁みる人生の機微が織り込まれているからでしょう。

 今回挙げた「It Makes No Difference」は、哀切を感じる名曲です。ザ・バンドの曲の中で名曲というだけでなく、個人的にはロックの名曲だと思っています。なんと言ってもリック・ダンコのボーカルが素晴らしい。ザ・バンドのボーカルとしては個人的にはリチャード・マニュエルがいちばん好きなのですが、失恋の歌とも言える「It Makes No Difference」では、感情を込めて唄うリック・ダンコの声がせつなく熱い思いをうまく伝えています。

 同じアルバムの中で、そのリチャード・マニュエルが歌っている「Acadian  Driftwood」(アケイディアの流木)も深く印象に残る曲です。Acadian(アケイディアン)は、古く北米東部大西洋岸(米メイン州東部とカナダのノバスコシア州)に入植したフランス人の子孫で、北米領土を争う英仏の戦争の中で故郷を追われ、世界各地に散りました。その一部はルイジアナ地方に逃れて定住し「ケイジャン」の祖となりました。独自の文化とアイデンティティを持ちながらも漂泊の民となったAcadianを唄ったこの「Acadian  Driftwood」という曲は、貧しい移民の子孫として育ったカナダからアメリカ南部に移ったロビー・ロバートソン自身、ひいてはカナダ人であるザ・バンドのメンバーの人生と様々な想いが込められ、それをリチャード・マニュエルが哀切を込めて唄う素敵な曲となっています。

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