●真夜中に聴きたい50曲 (15)
(15)Maria Muldaur「The Work Song」(マリア・マルダー:ザ・ワーク・ソング)
池袋の西口に、行きつけの小さなロック・バーがあります。友人達と小料理屋で飲んで騒いだ後、年末が近いのに何となく閑散とした街を1人でフラフラと歩いてその店にたどり着いた私は、カウンターでマスター相手にバカ話をしていました。客がフッと途切れた深夜になって、マスターがおもむろにターンテーブルに載せたレコードから聴こえてきたのがこの曲です。思わず会話をやめて、マリア・マルダーの声にじっと耳を傾けてしまい、1人で勝手にいい気持ちになってしまいました。
「The Work Song」は、マリア・マルダーの73年のソロデビューアルバム「Maria Muldaur」(邦題:オールド・タイム・レディ)の中の1曲です。カナダ出身のケイト・マクギャリクルの曲で、少なからず感傷的なメロディと郷愁をそそる歌詞が何とも言えません。彼女の独特の繊細な歌声をバックコーラスが盛り上げ、感傷的ながらも暖かい、とてもノスタルジックな雰囲気の曲に仕上がっています。
そしてこの「The Work Song」を含む「Maria Muldaur」は、出色のアルバムです。大ヒット曲となった「Midnight at the Oasis」をはじめ、ドリー・パートンの「My Tennessee Mountain Home」など、非常に良い選曲。バック・ミュージシャンも豪華です。ライ・クーダーやドクター・ジョンが参加していると言えば、推して知るべしです。全体としてはルーツ系の「アメリカン・ミュージック」としか言いようがないのですが、ロック、カントリー、ブルーグラス、ディキシー、ブルース、ジャグ、フォーク、ジャズなど様々な音楽の要素が溶け合ったこのアルバムは、この手の音楽が好きな人なら泣けるほど味がある構成で仕上がっています。かく言う私も、アナログ盤の頃から散々聴き込み、CD、そしてMP3音源の時代になっても、日々手放せないアルバムの1枚です。
「The Work Song」は、まさに、真夜中に聴くと胸にじっと染み入る1曲です。