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January 31, 2007
生と死を考え直した1か月
年末から年始にかけて、約1ヶ月間の入院生活を余儀なくされました。
事の始まりは、吐血です。12月に入ってすぐ、いつものようにオフィスを仕事をしていたら、急に気分が悪くなり、胃から大量に吐血しました。救急で訪れた消化器系専門病院で、とりあえずエコーによる検査。「胃に何かできている。がんや悪性腫瘍の可能性もあるので即刻入院」…と言い渡されました。その日は点滴を受けて何とか帰宅。翌日、病院を再訪して内視鏡検査を行ったところ、胃の幽門に近い所に直径4センチほどの大きな腫瘍が見つかり、その表面に大きな潰瘍があって、そこから出血していました。とりあえず「粘膜下腫瘍」との診断です。さらに直径2センチほどの大きな胆石も見つかりました。
胃がんではなかったとは言え、粘膜下腫瘍で、しかも4センチを超えるとなると、50%以上の確率で、GISTや平滑筋肉腫など悪性腫瘍の可能性があります。内視鏡で組織を取って生検をしても、詳細は不明。粘膜下の組織は取れないからです。最初に内視鏡検査をした内科医は、GIST(かなりやっかいな病気です)の可能性を最も疑っていました。ともかく無条件で、組織周辺部を含む胃の切除手術を行う…と言い渡されました。病理検査は切除後に行い、その結果悪性腫瘍であれば、それから治療法を判断するとのこと。
さて、いきなりこんなことを言われても不安です。そこでなんとか入院時期を伸ばしてもらい、既知の医学部教授がいるN医科大学病院でセカンドオピニオンを受けました。そこでも診断と治療法は同じ。4センチの粘膜下腫瘍であれば、腫瘍の性質がわからなくとも、間違いなく手術適応とのこと。N医科大学病院で手術しても構わないが、最初に訪れた消化器専門病院にもベテランの外科医がいるので声を掛けておいてくれるとのこと。そんなわけで、オフィス近くにあるベッド数100に満たない専門病院で手術を受けることにしました。病室は電話付きの個室が確保でき、病室でパソコンを使うこともできるとのことで、とりあえず安心です(AIR-EDGEでネット接続もしていました)。
入院したのは12月13日、手術は18日と決まり、手術日までは連日検査漬けになりました。周辺臓器を含む精密断層撮影の結果では腫瘍が転移している形跡はないとのこと。主治医のS先生(腹腔鏡手術や内視鏡手術を含めて年間100例近い手術実績を持つ名医です)の話では、胃の下部を2/3切除、さらに胆嚢は全摘出、開腹手術を行い、目視による転移などが認められればリンパ節の郭清も行う…とのことです。
ところで、こうした主治医との話し合いには、必ず医学部4年になる息子が同席してくれました。常々、自分の子供が医学部に通っていても別段自分の人生とは無関係…と思っていたのですが、今回に限っては、自校の担当教官や先輩の医師などから情報を集めてくれたり、主治医に突っ込んだ質問をしてくれたりと、かなり役に立ってくれました。
胃の部分切除(幽門部を約60%)、胆嚢全摘手術は3時間弱で無事終了。手術後は回復室でかなり痛かったのですが、2日目にはもうベッドから降りて廊下を歩け…と言われましたが、とても痛かった。手術直後の家族に対する説明では、「腫瘍も柔らかいし、周辺のリンパ節もきれい」おそらく良性だろうとのことです。術後4日目には水分摂取OK、5日目には重湯の食事が始まり、そして6日目には抜糸、すぐにシャワーや病院周辺の散歩も許可されました。
さて、切除した腫瘍部の精密な病理検査の結果ですが、うれしいことに「良性」でした。病名は「迷入膵」。「異所性膵」とも言い、聞き慣れない名前ですが、要するに「胃の中に膵臓組織が成長する」というものです(説明はこちら。私の胃の中に、膵臓が出来ていた…わけです。何でも、大きさから見てインシュリンを分泌していた可能性が高いとのことです。ともかく、粘膜下腫瘍となると、場合によっては胃がんよりも面倒な悪性腫瘍の可能性もある中、今回は本当に運がよかったと思います。一時は、遺書を書こうか…とまで思ったのですが、単なる胃の部分切除で済んで、ほっとしました。その後も順調に回復し、大晦日には自宅へ一時帰宅、そして1月11日に退院し、年末・年始にかけての約1か月に渡る入院生活が終わりました。暇なときはほとんど読書に明け暮れ、入院期間中に40冊程度の本を読みました。
年末・年始という世間がお休みの時期の入院だったこともあって、仕事への影響も最小限で済みました。退院後は、すぐに仕事に復帰できました。当初は満員電車を避けて、ゆっくり出勤するなどしていましたが、退院後2週間目にはほぼ手術前通りの生活に戻りました。現在は、ダンピング症状気を付け、食事を細かく分けて摂る…という日常生活の制限はあるものの、体調もよい上、手術部位の痛みなどもほとんどなく、ほぼ手術前と同等の生活に戻っています。既に、お酒も飲み始めています。
他人から見ればたいした体験ではないかもしれませんが、個人的にはちょっと大げさに言えば、生と死を考え直した1か月間でした。