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November 14, 2006

携帯電話の将来…P2Pへの期待

 所用で先週木曜日から海外に出掛けていました。赤道直下の国に数日間滞在していたので、急に涼しくなった気候に体がついていきません。

 ところで、今回の海外も携帯電話を持って出掛けました。いまやもう携帯電話なしでは生活できない日々…、若者のように一日中ケータイのキーを打っているわけではありませんが、仕事上では携帯電話は必需品。携帯電話なしで仕事をこなす状況は考えられません。
 そんな携帯電話の歴史…となると、意外と知られていません。ただ、日本における携帯電話が自動車電話から始まったことは比較的よく知られていますし、初期のショルダーホンを覚えている人も多いでしょう。
 NTTの前身である日本電信電話公社によって自動車ホンサービスが始まったのは1979年ですが、その前に移動式の電話としては1953年に「港湾電話」というシステムがあり、これが事実上の日本における携帯電話の始まりと言えます。そして「携帯電話」という名称でのサービスは、1987年に開始されました。その後1988年に日本移動通信(IDO)が、1989年にはセルラーグルーブがサービスを開始し、日本での携帯電話事業が本格的にスタートしたわけです(コンビニエンス・ラジオ・ホンという簡易自動車電話もありました)。当初はアナログ方式で、電話機もレンタル方式、月額料金は2万円以上でした。はっきりした記憶ではありませんが、私が1990年頃(91~2年?)に契約したIDOのサービスは、新規加入料が7万円前後、月額料金が2万円弱だったと思います。端末はTACS方式で、バッテリー込みの重さが300g近くあり、バッテリーは待ち受けで6~7時間しか持たず、重いのに予備のバッテリーを3個ぐらい持ち歩いていた記憶があります。
 世界で見ると、携帯電話サービスの歴史はさらに遡ります。1946年にアメリカのセントルイス市でサウスウエスタン・ベル電話会社によって始められた自動車電話サービスが、おそらくは世界初の商用携帯電話サービス…ということになります(他にもあるかもしれません)。

 さて、「携帯電話」をどう定義するか…は難しいのですが、「一般電話網(商用通信網)と相互接続された、移動端末を利用する無線通信・無線電話システム」…というのが一般的な定義でしょう。商用サービスとしては前述したセントルイスの自動車電話サービスが最初…ということになりますが、商用ではないシステムとしてならば、アマチュア無線機を使った「フォーンパッチ(ホーンパッチ)」というシステムが、かなり古くから使われていました。
 「フォーンパッチ」は、アマチュア無線をやっている人以外には耳慣れない言葉ですが、要するに「有線用の電話機から公衆回線を通じてアマチュア無線に接続する」…というもので、日本ではごく最近になって部分的に許可されたものです。しかし欧米でのフォーンパッチの歴史は古く、アメリカでは少なくとも1940年代には広く行なわれていたようです。アメリカでは海外に派遣される軍人が多く、本国の家族との通話にフォーンパッチが活用されていました。第二次大戦後の日本進駐軍がフォーンパッチを利用していたという記録があります。

 その携帯電話ですが、今後の発展形態としては、現行の3G、3.5Gから4Gへ…というのが定説です。要するに「より通信速度を速く」…を基本とする考え方です。「CDMA2000 1x EV-DO」や「HDSPA」などの3.5Gサービスが既に始まっており、次いで3GPPによる「LTE」、クアルコムによる「CDMA1x EV-DO Revision C」が、現時点で最も4Gに近い技術となっています。さらに3Gの本流に参加できなかった企業グループ(Intel等)が中心にWiMAX(モバイルWiMAX:IEEE802.16e)も4Gに名乗りを挙げています。そこでは、OFDMなどマルチキャリア技術の採用、MIMOなどマルチプルアンテナ、さらにはソフトウェア無線の実装など、様々な技術の採用が取りざたされています。
 携帯電話の今後の進化の方向として、こうした4Gへの進化、すなわち通信の高速化や端末のマルチメディア化などを挙げるのが一般的です。しかし私は、こうした高速通信に向けての通信方式の話とは全く別の角度から、ネットワーク構成そのものの変革を期待しています。

 ネットワークの形態を表す言葉に、「トポロジー」という単語があります。現在の携帯電話ネットワークは、IP化の進展度合いを問わず、基本的には中央集中型のトポロジー(スター型)を採用しています。これは何かあったときに中央の制御部分や基地局部分がダウンするとネットワーク全体がダウンする…という構成で、ある面で非常時や災害時に弱い構成とも言えます。さらに、こうした中央集中型のネットワーク構成は、「管理しやすい、されやすい」という側面があります。単純に「反民主的」のような言い方をするつもりはありませんが、やはり電話会社にとってだけでなく、政府など国家権力サイドにとっても「利用者を管理しやすい」ことは事実です。極論ですが、どこかの国による侵略を受けた場合、侵略した側は局舎の一部を占拠するだけで簡単に電話網を押さえることができますし、逆に市民による反政府運動などが起きた際に政府が簡単に電話網を止めることもできます。どちらの場合でも、通話・通信内容の管理も容易です。さらに、中央集中型のネットワークでは、制御部分に「システム負荷」が集中します。システムのリソースを分散させることが困難です。ネットワークの規模が大きくなればなるほど、中央の制御部分など、通信インフラ全体を増強する必要があります。

 ところで、アマチュア無線に代表される一般の無線機・トランシーバーは違います。通信インフラ無しで、任意の端末同士で自由に通話・通信を行なうことができます。携帯電話というのは、要するに無線機です。中央の制御機能を無視する形で端末同士の自由な通話通信が可能になれば、非常時・災害時にも使え、非常に「民主的な道具」となり得るわけです。携帯電話にも、こうした「端末同士の自由な通信機能」を持たせることができ、さらに「複数の端末を経由しての端末間通信」を実現できれば、ネットワーク事情は根本的に変わります。
 つまり私は、携帯電話への「マルチホップ通信機能」の付与、「アドホック・ネットワーク」化…こそが、今後の携帯電話の世界を根本的に変えると期待しています。アドホック・ネットワーク化によって、基地局を不要とし、ネットワークの規模の拡大に伴うシステムリソースの分散が可能になります。また、端末同士が自由に通話できるということは、「本質的な通信の自由」を得ることにつながります。

アドホックネットワークとは…

 無線LANのようなアクセスポイントを必要としない、無線で接続できる端末(パソコン、PDA、携帯電話など)のみで構成されたネットワークのことである。「無線アドホックネットワーク」、「自立分散型無線ネットワーク」などと呼ばれることもある。
アドホックネットワークでは、広くコンピュータ等の無線接続に用いられているIEEE 802.11x、Bluetoothなどの技術を用いながら多数の端末をアクセスポイントの介在なしに相互に接続する形態(マルチホップ通信)が取られている。
このため、アドホックネットワークでは基地局やアクセスポイントが不要となり、情報機器(端末、センサ、車)をなどを持ち寄ったその場で通信キャリアなどの無線通信インフラなしに無線ネットワークを構築することができたり、直接無線リンクが張れない情報機器間でも他の情報機器がそれを中継することができたり、災害時やイベント会場などでの一時的なネットワーク構築が容易であるなどといった特徴がある。

 さて、日本には「本来の意味での技術系ITベンチャー企業」があまり多くありません。いや、あるにあってもソフトバンクや楽天のような「エセITベンチャー」ばかりが脚光を浴び、本質的に革新的な技術を持つベンチャーが注目されにくいし、育ちにくい…という土壌があります。これは、企業を育て、投資すべき経産省など行政側の役人や大手金融機関やベンチャーキャピタルなどに、「技術の優劣や本質がわかる」人間が少ないからでもあります。携帯電話関連のベンチャー企業といえば、昨今はコンテンツ関係やらネット広告関係のところばかりが注目を浴びている状況で、日頃実にバカバカしいと思っている次第です。
 余談はともかく、私が以前から注目しているわが国の「本来の意味での技術系ITベンチャー企業」の1つに、「スカイリー・ネットワークス」という会社があります。この会社は、携帯電話の「P2P」「マルチホップ」を実現するための技術を持っており、携帯電話の将来を考える上で、現在最も注目に値する企業の1つです(代表者の梅田英和氏へのインタビュー記事)。

 こうした無線通信の「P2P」「マルチホップ」の実験が、過去に行なわれたことがあります。
 数年前に旧知の関西学院大学総合政策学部の中野幸紀先生とお会いした時、学生らとともにIEEE802.11Bを使ってのマルチホッピングによるネットワーク構築実験を行なっている話を伺いました。また、昨年行なわれた愛知万博の会場で、京セラやKDDI(au)慶應義塾大学、名古屋工業大学、そして上述したスカイリー・ネットワークスなどが参加して、マルチホップ通信実験を行なっていますhttp://www.kccs.co.jp/news/topics/050610.html。
 これらの実験の成果やその後の展開について注目していますし。またこうした試みは今後もぜひ続けて欲しいと思います。

 いずれにしても、個人的に小学生の頃から「無線通信」が大好きな私は、携帯電話の将来については非常に興味を持って見守っています。4GだのWiMAXだの、大手企業や大手キャリアの携帯電話市場における市場獲得・主導権争いばかり見ているのは面白くありません。携帯電話には、もっと本質的な発展や変革を強く期待する次第です。

投稿者 yama : November 14, 2006 04:01 PM

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