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October 26, 2006
過去1ヶ月の読書記録
たくさん読みましたが、記憶に残っているものだけを新旧取り混ぜて…
「ナイト・フォール(上・下)」(N・デミル:講談社文庫)
文句なしに面白い、何を読んでも面白いネルソン・デミルの力量には敬服。一番好きな作品は「アップ・カントリー」かな…。本作は「プラムアイランド」と同じくNY市警コーリー刑事が登場。96年7月17日に起きたTWA800便の墜落事故については、非常によく覚えてます。80年代によく訪れ、個人的に馴染み深いニューヨークのロングアイランド沖での出来事で、事故発生当時も人為的な破壊工作の可能性が大きな話題となりました。
「ルシタニアの夜(上・下)」(ロバート・ライス:創元推理文庫)
モンタナ州の片田舎の郵便局で起こった惨殺事件、90年前に投函され配達されなかった3通の手紙、アメリカが第1次大戦に参戦するきっかけになったUボートによる攻撃で沈没した客船ルシタニア号…、なんとなく三題噺のような展開だが、それなりに面白い。ただ「郵政捜査官」なる職業の設定は、作品のモチーフのために無理やり作ったような感が否めない。
「天使と罪の街(上・下)」(M.コナリー:講談社文庫)
「ザ・ポエット」の続編です。マケイレブの死からはじまり、FBI捜査官レイチェルが登場します。文句なしに面白いのですが、「ザ・ポエット」と比較すると、なんとなく物足りません。ま、期待があまりに大き過ぎたってことでしょう。
「血の協会(上・下)」(マイケル・グルーバー:新潮文庫)
「夜の回帰線」に続く、マイアミ警察のジミー・パス刑事を主人公にしたシリーズ2作目。これまた文句なしに面白い。アフリカの少数民族に伝わる呪術を扱った前作もよかったが、オカルト色がちょっと強かった。今回の設定はかなり異色。殺人犯とされた女性が辿った運命は、架空の物語とは言え、妙なリアリティがあります。出だしを読んだとき、その後にこんな展開が待っているとは予想できませんでしたた。アフリカの現状、人種・民族差別など社会問題がうまく散りばめられています。
「大山倍達正伝」(小島一志、塚本佳子:新潮社)
人物を描いたドキュメントとしては類を見ない労作で、面白さも超弩級。極めて個性的、いや個性的なんて言葉では表せないほどユニークな一人の人間の評伝として読んでも面白いが、戦後史、日韓関係史として読んでも面白い。彼が終戦からしばらくの間、建青の民族運動とケンカにあけくれる時期は、時代背景を浮き彫りにします。漫画の空手バカ一代は断片的に読んだ記憶がありますが、あの話はウソ、あの話はホント…的な興味以前に、虚実取り混ぜて伝説の人となった大山倍達とは、何とも魅力ある人物です。大山倍達は、1954年頃には自分の出自を公表していた…というのは知りませんでした。ちょっと重くて大きい本だけど、ぜひ一読をお奨めします。
「硫黄島の星条旗」(ジェイムズ・ブラッドリー/ロン・パワーズ:文春文庫)
栗林中将の戦略・戦術を高く評価し過ぎているように感じます。まあ、硫黄島で戦った海兵隊の勇気を高く評価し、しかもあまりに多い死傷者を正当化するために、敵の戦術を評価せざるを得なかったのでしょう。それにしても、戦争遂行のためには組織的なプロパガンダが必要だってことは、今も昔も変わりません。
「箱崎ジャンクション」(藤沢周:文春文庫)
いやあ、純文学です。茶化さないでまじめに感想を述べれば、実はかなり面白い。1時間もかからず一気に読みました。梁石日の「月はどっちに出ている」とか、映画「タクシードライバー」なんかもそうですが、タクシー運転手の日常というのは、小説や映画にしやすいのかもしれません。もっとも最近タクシーに乗ると、運転手に、不景気のグチ、中途半端な自由化による水揚げの大幅な低下のグチ…ばかりを聞かされてうんざりです。
「犬坊里美の冒険」(島田荘司:光文社新書)
プロットはあいも変わらず島田荘司そのものだけど、好きですよ、犬坊里美のキャラクター。御手洗潔にも吉敷竹史にも飽きたし、このシリーズに期待しましょう。島田荘司も多少、枯れてきたような気がする。
「天下城(上・下)」(佐々木譲:新潮文庫)
まあ、星2つがいいところの暇つぶし小説。ホント、この人の作品は、そこそこ面白い作品と駄作とが混じる。最近はイマイチの作品が多い。ちょっと前に「疾駆する夢」を「プロジェクトXのように安易なストーリー」とけなしたばかりだが、この「天下城」はちょっとマシ。週刊現代の連載時から時々読んでいたけど、「穴太衆」の視点から書いた戦国時代は新鮮かも。
「21世紀のマルクス主義」(佐々木力:講談社学術文庫)
佐々木力って、確か東大でセクハラ事件を起こしましたよね。まあ、それはともかくとして、古典的トロツキストの面目躍如たる本。マルクス主義に新しい光を当てた…とは到底思えませんが、和田春樹よりはマシ。「マルクス主義の誤りはソ連や東西ドイツ、東欧の崩壊で証明された」…的な単純な議論をする人は一度読んでもいい本かも。昨今の環境保全運動とマルクス主義の関係についてなど「なるほど」と思った部分もちょっとあります。
「1968年」(スガ秀実:ちくま新書)
スガ秀実はちょっと年食ってるけど、東浩紀や山形浩生あたりと並んで売れっ子です。で、この本だけど、混沌としていたこの時代の様々な思想潮流を網羅的に見るって、結構大変かもしれません。「ご苦労様」って感じです。クロカンやら大田竜、平岡正明、竹中労など懐かしい名前が並びます。大田竜の「辺境最深部へ退却せよ」は、高校時代に周囲のミニブームの中で私も読みました(内容は忘れた:笑)。あの大田竜が民族主義やら陰謀論の方向へ「行ってしまった」のは、今にして思えば理解できないでもないですね。個人的には、現在に至るまで谷川雁の「工作者宣言」が好きですが…。べ平連運動の内幕やら、それなりに面白く書いてあります。
個人的には、ポスト団塊世代の私にとって1968年はリアルタイムでの体験者ではないです。でも、ベトナム反戦運動、公民権運動の高まり、キング牧師の暗殺、パリの「五月革命」、プラハの春…など、私の世代でもそれなりに影響を受けたことは確か。そういえば「1968 世界が揺れた年」(マーク・カーランスキ:ソニー・マガジンズ)も読みました。
「中東イスラーム民族史」(宮田律:中公新書)
イスラム世界を、アラブ、ペルシャ、トルコの3つの民族に分けて解説しています。これを読むと、あのアケメネス朝ペルシャの末裔たるイランという国の持つ「文化的プライド」がどれほどのものか、よくわかります。アメリカは、イランに手を付けると本当に泥沼に嵌まるでしょう。それにしても、ブッシュへの追従でアザデガン油田の権益を手放した日本政府・役人は本当にバカですね。
「十二世紀ルネサンス」(伊東俊太郎:講談社学術文庫)
「中世の真っ只中、閉ざされた一文化圏であったヨーロッパが、突如として『離陸』を開始する十二世紀。東方からシチリアへ、イベリア半島へ、ギリシア・アラビアの学術がもたらされる。ユークリッド、プトレマイオス、アル=フワーリズミーなどが次々とラテン訳され、飛躍的に充実する西欧の知的基盤。先進的アラビアとの遭遇が生んだ一大転換期を読む」…って、帯のフレーズそのままなんですが、面白い本です。12世紀当時の、イスラム圏とヨーロッパ圏の文化の差は、想像を絶するほど大きかった。ユークリッド幾何学もアリストテレスも知らなかったヨーロッパ人は、ギリシャ語→アラビア語→ラテン語という経路で翻訳されて、はじめて高度なギリシャ文明を知ったわけです。
そういえば、先ごろローマ法王ベネディクト16世が、イスラム教を「邪悪で残酷」と表現した中世ビザンチン帝国皇帝の言葉を引用したことで、イスラム教徒の怒りを買ったことは記憶に新しいですね。この「十二世紀ルネサンス」を読むと、当時のキリスト教の哲学的レベルの低さでは、イスラムを評価することなど無理だったことがよくわかります。これは以前読んだ本ですが、「アラブから見た十字軍」(アミン・マアルーフ/牟田口義郎・新川雅子訳:ちくま学芸文庫)という非常に面白い本があります。著者はレバノン在住の著名なジャーナリストですが、十字軍の名の下に文明国イスラムに攻め込んだキリスト教徒が、「フランク」と呼ばれ、「人肉喰いの野蛮人」として恐れられた状況が詳しく書いてあります。
「パレスチナとは何か」(エドワード・W・サイード:岩波現代文庫)
スイス人写真家のジャン・モアが撮影したパレスチナ内外での写真に、サイードが随想的な文章を付けただけの本です。文章には、政治的な主張や解説はほとんど含まれません。ページをめくりながら写真によって「パレスチナの原風景」を見ていくだけなんですが、政治的、または地政学的な文脈で語られることが多いパレスチナには、実は「人が住んで日々の生活を営んでいる」という当たり前のことを思い出させてくれます。
「石油の歴史-ロックフェラーから湾岸戦争後の世界まで」(エティエンヌ・ダルモン/ジャン・カリエ著:文庫クセジュ)
書店でふと見つけて読んでみましたが、とても面白い本でした。1859年、アメリカ、ペンシルバニアで始めて商業ベースでの石油掘削が開始されて以降の「石油産業の歴史」が書かれていますが、現代の石油メジャーの成立過程がよくわかります。類書がないだけに、たくさんの人に一読を進めたい本です。
投稿者 yama : October 26, 2006 06:18 PM