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July 24, 2006
過去1週間の読書記録
相変わらず、電車の中で読みやすい文庫・新書を中心に、乱読というか濫読状態が続いています。昨夜までの過去一週間に読了した本は、文庫が7~8冊と新書が3冊、ハードカバー1冊ほど。新刊もあれば、未読の既刊本もあります。いつもながらエンタメ小説中心ですが、他のジャンルの本も少し読みました。先週は仕事が忙がしかったので、読書量はちょっと少なめかも。
まずは新刊文庫で面白かったのは、「出版業界最底辺日記―エロ漫画編集者『嫌われ者の記』」(塩山 芳明 ちくま文庫)です。著者とは同業…ではないですが、業界的にかなりわかる部分もあり、また同世代の人間でもあるし、彼の読んでいる本も共感できる部分があります。ともかく、こうしたサブカル関連業界にいる人たちって、実にしたたかでしなやかです。
そして吉本隆明「初期ノート」(光文社文庫)は、まあ高校時代に全集で読んだ部分も含めて再読目的で購入。この時代に生きた人々にとって「敗戦」がどういうものであったか…を深い部分まで知ることができます。この人、最近の時事評論は面白くもなんともないけど、戦中・終戦直後の時代背景の中で、思春期の青年がこんなことを考えていたのかと思うと、非常に興味深いものがあります。
新刊とはいえ、1ヶ月遅れで読んだのがジョージ・P.・ペレケーノス「魂よ眠れ」(ハヤカワ文庫)です。黒人探偵デレク・ストレンジシリーズの文庫新作ですが、説明の必要はなし。文句なしに面白かった。
新書の方は既刊書が中心で、まずは「フランス史10講」(岩波新書)、「ブリュージュ-フランドルの輝ける宝石」(中公新書)の2冊。ここ1年ぐらい、かつて嫌いだった「ヨーロッパ」がマイブームなので、その延長での読書です。「フランス史10講」は、ローマ時代から中世、近世を経て現代までのフランスの歴史とその文化の立脚点を要領よく解説した本、「ブリュージュ」は、ハンザ同盟の中心都市の1つであるブリュージュの歴史と中世フランドル地方の政治、経済、文化について書かれた本です。ブリュージュは、私も訪れたことがあります。どちらも啓蒙書レベルの歴史入門書ですが、通勤電車でパラパラと読むのにちょうどよく、それなりに面白かった。
新書で面白かったのは、既刊書ですが、書店の店頭でタイトルを見てふと購入した中公新書「南米ポトシ銀山」。あの、中世ヨーロッパ経済を変え、産業革命の引き金となるほどの富をヨーロッパに蓄積させたと言われるポトシ銀山の歴史を書いた本ですが、この本は「インディアスとヨーロッパを結ぶ経済学」の本でもあります。南米ポトシで算出された銀のうち、スペイン王室が直接吸い上げたのは、わずか1/5に過ぎません。何よりも、記録に残らず持ち出された量が、全産出量を半分近くに及ぶという実態については、初めて知りました。これら、記録に残らない大量の銀の一部はヨーロッパを介さずにアジアと貿易されたり、南米に留まったりした経緯が書かれています。また、インディオには過酷であった輪番制「ミタ労働」について、植民地経営側からも多くの反対論が出ていたことが記されています。中世にあっても、「人権」を唱えた人が数多くいたわけです。それにしても、300年以上にも及ぶこのポトシ銀山の地獄の強制労働で、数百万人のインディオの命が失われた…という説もあるそうですが、世界中で植民地から収奪された富の大きさと、収奪された民の側の苦しみは、どの植民地でも同じです。
あと読んだのは文庫の既刊書です。なんとなく気になっていたので、迷いながらも横山秀夫「クライマーズ・ハイ」を読みました。やっぱり面白くないですね。同じ日航機事故を絡めたエンタメ小説なら、先月読んだ香納諒一「炎の影」(ハルキ文庫)の方がはるかに面白いかも。以前この日記で「半落ち」がいかにつまらない小説かを書いたことがありますが。横山秀夫の作品の中で、私がまあまあ面白いと思ったのは、一般には評判がよくない「ルパンの消息」だけかもしれない。
まあ、横山秀夫が面白くないと思いながらも文庫化されるたびに読み続けているわけですが、要するにこの人の作品には「けれん」が多過ぎるんです。もともと、小説、しかもエンターテイメント小説なんて、それ自体がけれんの産物以外のなにものでもないわけで、けれんがあるからという理由で「面白くない」というのもおかしいかもしれない。でも、「けれん」にも種類があります。少なくとも、大向うをうならせる「けれん」なら、それはそれであっさり降参します。同じ演出や「はったり」でも、あまり露骨に「感情のツボ」を狙おうとしていると、多少ならずともうんざりするわけで、横山秀夫の小説はまさにそれ。セコいけれんが満載…って感じ。何か、「感動を強制」というか「感動への誘導」をされているような気がしちゃうわけです。このセコさは宮部みゆきに合い通じるものがあるんだけど、まだ宮部みゆきの方がマシかも。
先に香納諒一の名前が出ましたが、同じハードボイルド系では、東直己「熾火」も先週文庫で読みました。畝原シリーズの4作目ですが、このシリーズは相変わらず好調です。人間の暗い部分をあっさり書く…というスタンスがいい。
次いで船戸与一「夢は荒れ地を」(文春文庫)も、遅ればせながら先週読了。船戸与一は基本的に嫌いであまり読まない作家ですが、この作品に関しては舞台設定がいい。よく知ってる場所ですし…。カンボジアにPKOで派遣された自衛隊員のその後…という設定は面白かったし、カンボジアへの国際援助の闇の部分が描かれているのもよかった。そういえば、この本を読んでいるときに「カンボジアの旧ポル・ポト派最高幹部の一人だったタ・モク元参謀総長が死去」というニュースが流れたのは、妙にタイムリーでした。
既刊の文庫では、佐々木譲「疾駆する夢〈上・下〉」も、先週読了しました。好きな作家の作品ですが、内容に想像がついたので、これまで買わなかったんです。で、読んで見たら、やっぱり買わなきゃよかったってのが感想。いくつかの書評にも書かれている通り、これは「小説版プロジェクトX」以外の何者でもなく、しかも自動車産業の戦後を描いている部分も中途半端です。佐々木譲は「ベルリン飛行指令」「エトロフ発緊急電」「ストックホルムの密使」「ワシントン封印工作」と、1990年代には立て続けに面白い作品を書き、また「帰らざる荒野」など北海道を舞台にした和製ウェスタンものも好きでした。彼の作品が持つ「けれん」は、嫌いじゃなかった。でも彼は「武揚伝」あたりから作品に志向するものが変わってきたようです。最近の彼の作品は、面白くなくなってきた。そういえば、彼が書いた集英社新書「幕臣たちと技術立国」も読みましたが、別に面白くなかった。
技術立国をキーワードとする本とか、プロジェクトX的な話が好きなら、以前も紹介しましたが、中川靖三「日本の半導体開発-超LSIへの道を拓いた男たち」(講談社学術文庫)、杉山隆男「メディアの興亡」(文春文庫)、下山進「勝負の分かれ目」(角川文庫)…あたりが、圧倒的に面白いですね。いずれも文庫本で買えます。
そういえば、またしてもNHK BSで放送された「BS世界のドキュメンタリー」の話題。昨夜10時から2時間に渡って放映された「ドレスデン大空襲 前・後編」は、戦慄の記録映像でした。このドレスデンで行われた蛮行とたいして変わらないことが、現在レバノンで進行しています。「戦争反対」という意思は、理屈抜きでもっと単純に声を上げた方がよいかも…と、柄にもないことを考えてしまいました。
投稿者 yama : July 24, 2006 04:53 PM
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