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June 27, 2006

皇室雑感

 先日、旧知の全国紙の記者と某所で痛飲する機会がありました。彼によると、第三子を懐妊中の紀子妃はどうやら男児をお産みになるようで、大手マスコミでは既に公知の事実となっている…とのこと。むろん、酔った記者の戯言かもしれませんが、一部マスコミでも昨今そのように報道されていることは確かですし、ここへ来て「跡継ぎ問題」論争が下火になった経緯や政府関係者等の間に流れる空気を読む限り、紀子妃の子供が男児である可能性は、かなり高そうです。

 ところで、ちょっと古いニュースですが、八戸に本拠を置く地方紙に、次のような記事が掲載されました。

「…デーリー東北政経懇話会四月例会が十七日、八戸グランドホテルで行われた。明治学院大国際学部教授の原武史氏が『皇室問題の深層を読む』と題し講演。秋篠宮妃紀子さまの懐妊で沈静化した皇室典範改正論議をめぐり、第三子が男児、女児にかかわらず、皇位継承問題は当面の間、長引くとの見通しを示した。原氏は最近の天皇家をめぐる発言を踏まえ、『天皇陛下と皇太子さまは皇室の伝統やしきたりについての考え方に大きな隔たりがある』と指摘。紀子さまに皇位継承権のある男児が生まれた場合、伝統を重んじる天皇陛下の考え方に近い秋篠宮家の比重が高まり、こうした確執が表面化する可能性に言及した。
 女児の場合は再び皇室典範の改正論議が再燃し、“ポスト小泉”政権の大きな政治課題になるため、『どういう結果になっても、ベストの解決はあり得ない』と語った。原氏はベールに包まれた皇居の“内側”も紹介。宮中三殿では、戦前と変わらない祭祀(さいし)が年三十回程度、執り行われており、『国民の平安のため、天照大神や歴代天皇に真剣に祈りをささげるのが皇室にとって最も大切なことだ』と強調した。こうしたしきたりは、男系の天皇制の下で延々と引き継がれ、女性にとっては心身ともに負担が大きい、と指摘。皇太子妃雅子さまが適応障害を患ったのは、なかなか実現しない皇室外交や、男児誕生への期待が重圧になったからではなく、『こうした皇居内の環境に最大の原因があるのでは』との見解を示した(2006/04/18)…」

 天皇と皇太子の間に「皇室のあり方」について考え方や価値観の違いがある…というのは、世代の差と、生き抜いてきた時代の差を考えれば、十分にに頷ける話です。これは「確執」という性質のものではないでしょう。一方で、天皇に近いと言われる秋篠宮と皇太子の間には、明らかに確執がありそうです。
 この秋篠宮の皇太子の確執については、秋篠宮が誕生日の会見で皇太子による「雅子のキャリアや人格を否定する動きがあった」との発言を批判して、それが英紙タイムズ
「日本の皇族の確執が噴出」と大きく報じられたりもし、かなり世上の話題となった経緯もあります。

 私は、現在、皇太子vs秋篠宮間、または東宮家vs秋篠宮家において、一種の「権力闘争」があるのではないかと思っています。皇太子と秋篠宮の兄弟間で、確執ではなく、一定の権力闘争が行われている…と考えると、いろいろと腑に落ちる部分があります。
 むろん、現憲法下における象徴天皇制なるものを考えれば、「権力」という言葉を使うのは穏当ではないことは百も承知。確かに天皇は一切の世俗的な権限(憲法第6条の任命権、7条の国事行為等は世俗的な権限とは言えない)や権力を持っていない。従って、天皇に何らかの「力」があったとしても、それは法の下の「国民に対する強制力」ではありません。しかし、「権力」というのは、もっと広い意味をも持ちます。大辞林によれば、権力とは「他人を支配し従わせる力。特に国家や政府が国民に対して持っている強制力」ということ。ここで注目したいのは「他人を支配し従わせる力」です。他人を支配し従わせる力は、何も法によって与えられた力だけではありません。古代社会において「シャーマン」が他者を従わせる力を持っていたのと同じく、現代社会においても法によってではなく、もっと別の形での「他人を支配し従わせる力」が存在することは否定できません。
 以前読んだ「天皇制の基層」(吉本隆明・赤坂憲雄著)という本を思い出したのですが、この対談の中で、あのかつての左翼運動の代表的論客(こんな表現は全く不本意ですが)たる吉本隆明が天皇制を語るときに、必ず彼が終戦以前に持っていた「天皇に対する理屈抜きの畏敬の念」を語り、「もし仮に天皇と会うことになったらどうしよう」という戸惑いをぶちまけます。その上で、「象徴天皇制であっても、ひとたび国家的危機に陥った時、日本人はひ弱なカリスマ性に頼ってしまい天皇を使って自己正当化してしまうのではないか」という疑念を呈しています。吉本隆明すらが抱いている天皇への思いは、彼の本音というだけでなく、多くの日本国民の心の根底に存在する感情の存在を指摘しているのだと思うわけです。で、こうした感情が存在する以上、現実的にはこの日本において「天皇」というポジションが「影響力」という名の「権力」を持っていることを否定することは難しい。そして、多くの人がそれを認めるが故に、「民主主義」を絶対の価値観とする人々が「天皇制反対」を強く主張する…という面があるのでしょう。

 さて、ここからは推測に過ぎませんが、東宮家vs秋篠宮家という構図が存在すると仮定して、「天皇の権力」に対して比較的執着度が高いのが秋篠宮の方ではないか…と想像されます。まあ、当然と言えば当然でしょう。皇位の直接継承者たる皇太子とその弟君とでは、単なる皇位継承順位の差以上に、大きな「立場の違い」があります。日常生活においても、宮中三殿で行われている「天皇の祭祀」には秋篠宮には無縁であり、いずれその祭祀の当事者となることを「当然のこと」として受け入れている皇太子の側は、おそらく「権力」などという考え方は絶対にしないはず。
 東宮家vs秋篠宮家という構図で見た場合、雅子妃と紀子妃の関係はどうでしょうか? これは、紀子妃が雅子妃を相当に意識しているように見えます。雅子妃にとっては、依然として皇室カルチャーへの生理的な部分での順応が大きな位置を占め、秋篠宮家や紀子妃の存在は、皇室全体の中でのそれなりの位置付けとして意識されているだけのように感じます。一方で紀子妃は、雅子妃をかなり過剰に意識していると推測します。俗世の能力の面だけでなく、一女性としてもです。さらに、旧華族ではない民間からの妃として皇室に入った女性として、「人気」の部分で雅子妃を強く意識しているようにも思えます。いかんせん、一部マスコミのバッシングにも関わらず雅子妃と愛子内親王の人気は絶大です。もしかすると紀子妃は、雅子妃の人気が内心では面白くないかもしれません。この紀子妃の雅子妃に対するある種のライバル意識が、秋篠宮の皇太子に対する対抗意識と相乗し、結果的に秋篠宮家としての「権力獲得」を目指す動きにつながっているようです。むろん、こうした動きの総決算が今回の「男子出産を目的としたご懐妊」であったようにも思います。天皇に権力があるとするなら、皇位継承者の親が大きな影響力を持つようになることは、既に幾多の歴史が証明しているとおりです。

 それにしても、ミギでもヒダリでもない私が、この日記で、何を三流週刊誌のような「皇室内輪憶測話」を書いているのか?…と、不振に思われる方もいるでしょう。
 理由は簡単です。私は最近、かなり熱心な皇室ウォッチャーなのです。とりわけ、皇太子と雅子妃の動向が気になるのです。こうなったきっかけはといえば、やはり以前の日記でちょっと触れたことがありますが、「皇太子の純愛」が非常に気に入ったのです。失礼ながら、40歳を超えられ中年の域に達している皇太子が、雅子妃に対して相も変わらず惚れ抜いており、惚れているが故に、今上の陛下の考え方や広く従来の皇室文化と衝突することを承知で、雅子妃を気遣う数々の勇気ある発言をされては物議を醸している…、この姿が、ある意味でとても微笑ましいのです。先般発表された今夏のオランダ行きについても、おそらく各所から批判が持ち上がるでしょう。「公務を疎かにしながら、海外へ遊びに行くのはけしからん」という論調の発言を、既に耳にします。皇太子は百も承知でしょう。それでもなおかつ、皇太子は雅子妃の海外での静養を強く主張したものと推測されます。そんな板挟みに苦しむ、そして平凡な中年男の苦悩をも滲ませる、真面目で律儀な皇太子の姿が、結構好きです。そうです、私は雅子妃のおっかけオバチャン達とは異なる立場ながら、皇太子ご一家のファンなのです(笑)

 正直なところ、皇室典範の改定論争に興味はありません。これも以前書いたように、皇室神道の伝統を守り、大嘗祭をつつがなく行うためには、天皇は男子でなくてはなりません。天皇制の存続は、男系を基本とした皇位の継承によって行われるべきであり、一部で言われる女系容認は、現行の天皇制とは質的に異なる制度への移行を意味します。それを多くの国民が望むのならそれはそれで構いませんが、私はやはり反対です。例え既に万世一系の遺伝子伝承は失われているとしても、貴重な伝統文化としての皇室神道はできる限り純粋な形を残すべきだと思います。先に触れた「天皇制の基層」でも述べられているとおり、明治維新に際して、皇室は大きく変容し、江戸期以前に行われていた重要な祭祀はかなりスポイルされています。それも、何らかの形で旧来の姿に戻すべきでしょう。
 ただし、こうした意見を持つことと、政治的立場の右・左はまったく無関係であることを、再度書いておきます。

投稿者 yama : June 27, 2006 05:55 PM

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