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August 17, 2005
大国とは?
昨日、日本は世界第二位のGDP…なんて話を書きましたが、実態は怪しいものです。
まずは常識的な話ですが、GDPという数字の曖昧さです。GDPには「実質GDP」と「名目GDP」があり、数値の算出にあたっては様々な補正がなされます。またGDPギャップ(一国の全産業の潜在的生産能力と実際のGDPの差)なんてものもあります。面倒な説明を抜きにすれば、どの国の政府も、なんとか自国のGDPや成長率を大きく見せたいわけで、様々な数字の操作を用いてGDP値を大きめに発表するのが一般的だし、日本政府が発表するGDPもその例外ではありません。
さらに、国家間のGDPを比較するとなると、別の問題も生じます。GDPの計算はそれぞれの国の通貨をベースにして行い、その上で為替レートで補正するわけですが、この「為替レート」というやつがクセモノで、各国の経済の実態を必ずしも反映したものではありません。そこで、最近では購買力平価(PPP:こちらを参照)なるものを換算基準に用いることがあります。
購買力平価をもとにした世界のGDPランクが、こちらです。日本は中国よりも低く、インドと拮抗する水準になっています。この「実は中国が日本をGDPで上回る」という話は、数年前から多くのエコノミストが話題にしており、今なお各所で議論を呼んでいるのでご存知の方が多いでしょう。
もっとも、購買力平価の概念や算出法については問題もあります。一般に「低所得国ほど名目為替レートが購買力平価ベースの為替レートを大幅に下回るため、ドル換算で見て物価が安い」という傾向が強くなります。従って、発展途上国の一人当たりGDPなどは大幅に上方修正されるわけですが、この「名目為替レートと購買力平価ベースの為替レートの差」の修正が「行過ぎ」になることが多いわけです。
例えば、購買力平価で考えれば中国は日本よりGDPが大きいと言っても、今後さらに中国の国民1人あたりのGDPが増えれば、中国側の購買力平価の修正項目が少なくなり、結果的にGDP合計の修正度合いも少なくなってくるはずです。国民の所得が増えて低所得国の域を脱するに従って、GDPの伸びは鈍ってくるわけです。中国のGDPについても、行過ぎ修正の結果によるところが大きく、例えば中国の農村部に住む農民や一般労働者が、「世界第二位の豊かなGDP国家」に住んでいることを実感することは、現実にはないはずです。
そして実際に、中国科学院研究チームが発表した「中国現代化報告2005」では、「購買力平価で計算した中国の1人当たりGDPは01年に3580ドルと、英国や米国の19世紀後半の水準にすぎないなどと分析。01年時点で米国とは約100年、ドイツと約80年、日本と約50年の総合的な「時差」があるとし、過去20年の高成長を維持しても現在の高収入国家の水準に達するには約50年かかると指摘。そのためには労働生産性を33倍、農業の生産性を47倍に高める必要があると警告。これらを踏まえ、楽観的にみても中国の総合的な経済水準が02年の米国の水準に達するのが50年ごろ、本格的な先進国になるのは80年ごろ」…と自国の状況を分析しています。
ついでの話ですが、このGDPについて以前面白いコラムがあります。ここに書かれているのは中国のGDPがどうこう…という問題ではなく、「GDPの大きい国が必ずしも強国とは限らない」という話です。まさにその通りだと思います。
なんかどうでもいいことをごちゃごちゃ書いてきましたが、いずれにしても「GDP」なんてものは、「豊かな国とは?」「大国・強国とは?」を考える時に、あまり指標にはなりません。「豊かさ」であれば、植民地時代からの資本蓄積が大きい西欧諸国などは、1人あたりのGDPの数値に見るより現実の生活は遥かに豊かです。「大国・強国」というのならば、やはり国土が広く人口や資源が多い「BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)」諸国は、みな間違いなく大国です。
では翻って、日本は?…と問うてみれば、世界中の多くの人が「経済大国」であることは認めても、もっと本質的な部分で「大国」とは誰も思わないでしょう。これは、精神的に貧しいとか、国際貢献が少ない…などという問題とは関係なく、やはり歴史的・本質的に「極東の小さくて目立たない国」なんだと思います。そしてこの国の豊かさについては、言うまでもなく住んでいる私たち自身が一番よく知っています。ホントにこの国は、いろんな意味で「貧しい国」になっちゃいました。教育システムはとっくに崩壊し、年金制度や保険制度も近々確実に破綻します。生活力もなく老いていく多くの国民は、今後どうやって生きていくのでしょうか…
うーん…やっぱり、総選挙の結果に興味はありません。
投稿者 yama : August 17, 2005 03:04 PM
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