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ブラウザフォン(iモード等)について考える


 私は、全くのお遊びで個人的にiモードサイトを運営しています。なぜ「運営」などという大げさな言葉を使うのかというと、それが「人生相談」系サイトだからです。別に私が人生相談をやっているわけではありません(人生相談なんてある意味で不愉快極まりないものです)。実は「護符」サイトなのです。私は宗教は嫌いですし、占いとかには全く興味がありません。その私がこんなサイトを運営しているのには、深い理由があるのです。

 そもそも事の始まりはiモード関連の仕事でした。たまたま、まだiモードが普及していない1999年の夏頃から、iモード関連の雑誌を企画したり、雑誌に連動したiモードサイトを作ったりしていました。その時に作ったコミュニケーション系iモードサイトが、いつのまにか連日数万アクセスに達し、おかげで管理していた私たちはiモードコミュニティがどういうものかを、嫌というほど知ることになりました。




■iモードは最大のインターネットアクセス端末

  iモード端末の普及台数は11月末には約3000万台に達します。電気通信事業者協会(TCA)によれば、10月末のau、J-PHONE等を含めたブラウザフォンサービス契約数は4618万1900です。現時点においてブラウザフォンは、国内で最大のインターネットアクセス端末なのです。
 「インターネットアクセス端末」とはいえ、ブラウザフォンユーザの大半が「インターネット」であることを意識していません。というよりもインターネットを「知らない」し「興味がない」という感じです。
 膨大な数のブラウザフォンユーザ群が、いい意味でも悪い意味でも「インターネットを知らない集団」であることが、特異な性格を持つ「ケータイコミュニティ」を生み出しました。

■デジタルデバイドの存在

 日本においては、明確な「デジタルデバイド」は存在せず、社会階層によるネットワークインフラへのアクセスに格差は生じていないと考えられています。しかし、現実にはそうではありません。
 日本におけるデジタルデバイドは、知識の壁、情報関連スキルの壁です。情報関連スキルの壁ができる原因は、年齢や学校教育の問題など様々ですが、ひと言でいえば「環境」の問題に行き着くでしょう。家庭でも学校でも職場でもパソコンに接する機会に恵まれず、しかも周囲にパソコンを必要としていたりパソコンが好きだったりする人間もいない……という人間はかなり多いのです。パソコンを扱う能力など全く必要ないという仕事も多く存在します。パソコンに縁のない人間はインターネットにも縁がない……、という状況がデジタルデバイドを生み出しました。
 このわが国の「デジタルデバイド」における情報スキルの壁をあっさりぶち破ったのが、iモードに代表される「ブラウザフォン」です。ブラウザフォンは情報関連スキルの有無に関係なく、ありとあらゆる社会階層に広くインターネットの門戸を開きました。この事実こそが、iモードコミュニティが従来のパソコンユーザーによるネットコミュニティとは質的に異なるものに発展していった最大の要因です。
 ブラウザフォンユーザー(とりわけコアユーザー)とパソコンでインターネットにアクセスするユーザは、実はほとんど重複しません。ケータイユーザーに対して「インターネット端末としてのパソコン機能や利便性」を訴えてもあまり意味を持たないのです。パソコンの機能について知らないし、知りたいとも思わないというケータイユーザーが多いのです。次世代携帯を含めて、最近のケータイ端末機能の高度化は、企画する側と使う側の意識にズレがあるようです。

■相手の顔が見える“熱い”コミュニケーション

 ケータイコミュニティの特異性は、その実体がインターネット・コミュニケーションであるにも関わらず、多くの利用者が「ネット馴れ」「ネットすれ」していない点に起因すると考えます。パソコンユーザがパソコン通信時代から培ったネットワークコミュニケーションの常識が通用しません。概ね、以下のような傾向にあります。

@ネット上のコミュニケーションにも関わらず、他人の発言に対して非常にナーバスに反応する。「これはネットだから」という“遊び”が少ない。
A実生活上の人間関係と同じ環境・関係が、ネット上でも再現される。「ネット上の出来事」とは思えないほど、対人関係が深みに入る傾向が強く、好き・嫌いがはっきりする。また、コミュニティを仕切る人間が現れ、それに従う人間が現れる傾向にある。
B“パソコンからインターネット”の世界では「著しいネチケット違反」として広くコンセンサスがとれている行為(荒らし行為やいたずらメール等)が、逆に「面白い」とされる。
Cネットコミュニケーションと電話によるコミュニケーションがシームレス。

 こうして並べてみると、ある意味で「ネットコミュニケーションに未成熟」という感じを受けます。インターネット・コミュニケーションの世界では、パソコン通信の初期から長い歴史とトラブルも含む経験が積み重ねられています。そうした経験の上に「2ちゃんねる」に代表される「不特定多数の人間によるインターネット固有のバーチャルで冷めたコミュニケーション」が生まれました。この「バーチャルな世界で遊ぶ」という長年培われた“文化”に全く反するのがケータイコミュニティです。私は、これを“未成熟”と捉えるのではなく、“新しいコミュニケーションの形”と考えたいのです。
 ケータイのコミュニティは、一言でいうと「熱い」のです。ネット上にもかかわらず、「相手の顔が見えるコミュニケーション」が基本です。参加者の多くに「バーチャルコミュニケーション」という意識が全くありません。実生活における対人関係の延長で、ケータイを通じて友人や知人を増やしていくのです。チャットや掲示板などネット上の些細なことばのやりとりの結果で「裏切られた」とか「親友になった」などのシチュエーションが繰り返されます。要するに「人間臭い」コミュニケーションが繰り広げられます。
 さらにこうした“実生活ライクなお付き合い”の盛り上がりに輪をかけるのが「電話」機能の存在です。ネットコミュニティは「電話コミュニティ」でもあります。ともかくネット上で出会った人間に対して、すぐに電話をかけます。

■ブロードバンドじゃないから面白い

 インターネットを含むパソコン通信の歴史は、ブロードバンド化、ネットワークを流れる情報量増大の歴史でした。しかし、iモードというブラウザフォンの登場によって、明確なナローバンド化が進んだわけです。ネットコミュニケーションにおいて初めての“大規模な逆行”でした。
 しかし、ブラウザフォンのユーザ層のコミュニケーション活動、情報活動を見ているとブローバンドの必要性について深く考えさせられます。ケータイユーザーの大半が「ネットワークのブロードバンド化」の意味を知らないし、知る必要もないと考えています。それどころか、パソコンの存在と機能、ブロードバンドコミュニケーションを知っているケータイユーザーであっても、パソコンを「不要」「不便」と断言する層が多いのです。パソコンとケータイを使い分けることについても、大半のブラウザフォンユーザは興味を示しません。
 ケータイコミュニケーションの基本はあくまで「テキスト」、しかも文字数の少ないテキスト情報です。待受け画像や写メールなどケータイ上での画像アプリケーションは脇役であり、“スパイス”に過ぎません。
 ケータイコミュニケーションの醍醐味は「少ない文字数で表現し、少ない文字数で伝える」ことです。ケーターユーザーの多くは、この「少ない文字数で表現し、少ない文字数で伝える」ことの楽しさをよく知っているし、ヘビーユーザーほどコミュニケーションが上手です。結局は、ナローバンド・コミュニケーションの特性をポジティブに捉え、それを楽しむ姿勢が強いのでしょう。ケータイ画面サイズに特化した“新しい文学表現”まで生まれつつあります。ケータイコミュニティ見ている限り、「マルチメディアコミュニケーション=高度なコミュニケーション」ではない…と思います。

■ケータイ文化は若者文化ではない

   ブラウザフォンのヘビーユーザ層、コアユーザ層は「大人」で「社会人」です。具体的には20代前半から〜30代後半まで分布し、中でもコアユーザーは20代後半が多いようです。ケータイのヘビーユーザ層として世間一般で広くイメージされている「10代の若者や女子高校生」は、メール以外のネットコミュニケーション手段をそれほど利用していないし、全ユーザ数から見た割合も高くありません。
 ケータイ・コミュニケーションのヘビーユーザ層は、iモードの場合は月額パケット料金が1万円を超えるケースが普通で、極端に多い場合には10万円を超えるユーザーが多数存在します。
 ケータイのヘビーユーザー層は、自らケータイサイトを持ち、または特定のサイトをコアにして密度の高いコミュニケーションを繰り返しています。メールの送受信件数についても1日数百〜1千通とユーザーが多数存在するのが驚きです。ケータイコミュニティにおいては、情報の伝達に際してこのコアユーザー層が大きな役割を果たすのです。彼らコアユーザー層を中心にコミュニティが増殖していきます。
 またiモードの場合、全契約者の10%程度のコアユーザーが全パケット料収入の80%を支払う構造になっています。現在のiモードの普及台数から見れば、わずか10%とは言っても約300万人近いユーザー数になります。さらに“超コアユーザー”は全契約者の3%程度ですが、それでも100万人近い数字になります。つまり、100万人で構成される非常に密度の濃いケータイコミュニティが存在するわけです。このケータイコミュニティの存在を、パソコンユーザーの多くは知りません。

■大半は真面目なお付き合い

 ケータイと言えば「出会い系サイト」の問題が頻繁に話題になりますが、これをケータイコミュニケーション固有の問題とするのは誤りだと思っています。第一、私が知っているケータイヘビーユーザーの大半は、常識的な大人です。出会い系サイトの問題がケータイが原因となるケースが多いのは、単に「ネットコミュニケーションユーザーにケータイ利用者が多い」ということを証明しているに過ぎません。母数が大きい故に、同じ割合で存在する「ヘンなヤツ」の絶対数が多いだけなのです。
 確かに「電話機能とシームレス」「比較的実生活で会いやすい」というケータイコミュニケーション固有の傾向が、出会い系サイトの問題を生み出す一因となっている可能性は高いのですが、特にケータイユーザーの中に問題を起こす人間のウェイトが高いわけではないと思います。

■個人的に運営しているサイト

 さて、ケータイユーザーのコミュニケーションは「熱い」「人間臭い」と書きましたが、こうした性格ゆえに、根も葉もない「うわざ」が拡がるのが早いし、怪しげな情報に対して反応が早いのです。ある意味で「2ちゃんねる」以上に、怪しいコミュニケーションが繰り広げられます。
 そんなケータイサイトを見ているうちに、個人的に「怪しげなサイト」をやってみたくなったのです。ケータイコミュニティの実体を確かめてやろうって気もありました。そこで始めたのが、「iモード護符サイト」です。待受け画面用の「護符」を配布するサイトで、最近では公式サイトにも類似のものがありますが、2000年の1月から運営している私のサイトは、最も早いものです。「iモード護符」というものを実際に作ったのは、間違いなく私が最初です。特に宣伝などしたことはありませんが、ケータイ雑誌などで何度も紹介されたこともあって、けっこうなアクセス数があります。
 護符の配布は自動化されていますが、なぜか管理者あてメールで、毎日のように人生相談のメールが舞い込むのです。多いときには1日5〜6通はメールがきます。一応は「相談にはお答えしない」ことになっていますので、特に答えてはいませんが、山のような人生相談メールを前に時々考え込んでしまう、今日この頃です…