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ダイナミックレンジの話     2003/9/5

 デジカメのダイナミックレンジについては、相変わらずいろいろなメディアで話題に上ります。特に、昨今増えた「極小画素CCDを批判的に見る人」の多くが、極小画素CCDの最大の弊害として「ダイナミックレンジの低下」を挙げています。また、ダイナミックレンジが低いCCDまたはCMOSを採用したデジカメの画像が、ハイライト部やシャドー部が階調表現が苦手…だということは、多くのデジカメユーザーが知っています。しかしながら、「ダイナミックレンジとは何か」「撮像素子のダイナミックレンジの高低によって何が変わるのか」…について、人間の目の機能との比較で実感している人はあまり多くないかもしれません。特に、ダイナミックレンジを数値で把握している人は、非常に少ないように思います。
 そんなわけで、サイト内のあちこちで書いたダイナミックレンジの話を、まとめてみました。

※ この項は、まだ一部考えがまとまっていないので未完成です。
※ また、細部において誤った記述がある可能性があり、後日精査の上で訂正します。



■デジカメのダイナミックレンジは低いのか?

 銀塩フィルムとの比較で、デジカメはダイナミックレンジが低い(狭い)という話は、従来から様々なメディアで言われてきたことです。要するにデジカメで撮影した画像は、ハイライト部やシャドー部がツブレやすい…ということです。しかし、数値で見る限り、デジカメに搭載されるCCDのダイナミックレンジは、銀塩フィルムに近いものになってきています。
 CCDのダイナミックレンジというのはデータシートにも数値として記載されていないことが多いのですが、おおよその数値は出すことができます。2/3インチなどチップサイズが大きく画素数が少ないCCDや富士写真フィルムのハニカムCCDなどは70dB(1:4000)近くまでいく例もありますが、1/3インチのような小型CCDや高解像CCDの場合は55dB前後にまで下がります。
 これに対して、銀塩フィルムのダイナミックレンジの目安を数値で表すと、ISO100のネガフィルムが約60dbに相当します(米コダック社の資料による)。一般的に使われるポジ(リバーサル)フィルムは、感度にもよりますが、当然これよりも低い数値になりますので、50db台でしょう。となるといずれにしても、最新のCCDを使うデジカメのダイナミックレンジは、銀塩フィルムと比較して巷間言われているほど低くはありません。
 ただし銀塩フィルムとCCDは、レンジにあまり差はなくとも特性には大きな違いがあります。例えば、一般的にCCDは銀塩フィルム(特にリバーサル)と比べて、シャドー部の階調表現は遜色ありませんが、ハイライト部の階調表現が苦手…といった傾向があります。

■ダイナミックレンジとは

 話が前後しましたが、db(デシベル)という単位で表される「ダイナミックレンジ」とは、どのように定義すればよいのでしょうか? 難しい話を除けば、デジカメのダイナミックレンジとは、銀塩フィルムの用語で言えば「ラチチュード」と同じです。要するに「印画紙の黒から白までの濃度が変化する幅」を指します。db(デシベル)は比率を表す単位ですから、デジカメにおけるダイナミックレンジは「階調を識別することができる最小輝度と最大輝度の比率」と定義できます。CCDのダイナミックレンジは、ノイズフロアと飽和電荷量の比較によって決められます。
 また、階調表現はRGBのビット数にも関わってきますから、「見せかけのダイナミックレンジ」に関しては一概に「飽和電加量とノイズ」の問題だけで判断はできません。さらに、ゲインアップ時のアンプの性能や信号処理回路による増感の問題などもあります。メーカーが、デジカメのカタログやCCDのデータシートなどにダイナミックレンジを数値化して表示しないのも、「表現できる階調」の判断が難しいからでしょう。この話は別の機会に書きます。




■ダイナミックレンジは広い方がよいのか?

 ところで、CCDのダイナミックレンジは広ければ広いほどよい…のでしょうか?
 実は、これは非常に微妙な問題です。私はたまたま仕事でダイナミックレンジが130dbというとんでもない広ダイナミックレンジの対数出力型CMOSセンサの試作品に長期間触れる機会がありました。わずか35万画素でしたが、そのレンジは驚くべきもので、画面内に晴天の日中の太陽を入れるという極端な逆光状態で、同時に人間の顔を細部まで写すという驚異的な代物でした。
 この、人間の目を超える広いダイナミックレンジの対数出力型光センサで、ごく普通の光景を撮影してみると、なんだかコントラストを感じないのっぺりとした、何とも違和感がある画像(映像)になります。要するに、画像にメリハリがないのです。
 これは、銀塩フィルムの写真を例にしてもよくわかる話です。一般的にラチチュードが広いネガフィルムの画像はメリハリが少なく、ラチチュードが狭いポジフィルムの画像の方がシャープです。乱暴な話ですが、もしダイナミックレンジが広ければ広いほど良い写真が撮れるのなら、プロカメラマンはネガフィルムを使うはずです。しかし、多くの商業写真はラチチュードの狭いポジフィルムで撮影されます。これはいったい、どういうことでしょうか?

■ダイナミックレンジが狭いCCDの方が「人間の視覚に近い」画像が撮れる!

 人間の目(網膜)のダイナミックレンジは、約80db程度と言われています(上図参照)。人間の目は「対数出力(変換)型イメージセンサ」に近いと言われます。つまり入ってくる光量が2倍になると2倍の明るさに感じるのではなく、入ってくる光量が10倍になると2倍の明るさを感じる…ということです。正確に対数的かどうかは別にしても、かなりこれに近い特性を備えていると言われます。だから人間は極端な逆光状態で、人間の顔も背景も同時に認知すると言われています。
 でも、この話は人間の目の機能を正確に表わしてはいません。確かに網膜上のレセプターが感知できる光量の範囲は広いのですが、それは必ずしも「1つの視野の中で同時に感知できる」…ことを意味しません。以前こちらで書いたように、人間は視野の中にある明暗の差が大きい対象物を、短い時間差を置いてそれぞれ別個に見ている…ことの方が多いのです。つまり、逆光状態にある視野の中では、「暗い顔」と「明るい背景」を交互に見て脳の中で2つの画像を合成する…といった作業を脳が行っています。背景が明るい逆光状態にある人間を見るとき、背景と較べて相対的に暗い顔の部分は絞りを開けて見ます。明るい背景を見るときには絞りを絞って見ます。これを瞬時に切替えながら見るので、明るい部分と暗い部分を同時に見ることができる(ように認識する)わけです。だから人間の網膜の光学的な機能は、言われるほどダイナミックレンジが広くないのかもしれません。人間の認識能力がダイナミックレンジを補っている、という言い方もできます。
 「明順応」「暗順応」という言葉を聞いたことがある方は多いでしょう。人間は、長時間明るい部分を見ていると、急に暗い部分に入った時に周囲が良く見えません。明るい昼間に自動車を運転していて、急に暗いトンネルに入った時に、トンネルの暗さに目が慣れるには時間がかかります。人間の目には、同じ視野の中の明るい部分と暗い部分を「同時に見る」能力が確かにありますが、明るい部分と暗い部分を「同時に細かい部分までよく見分ける能力」はないようです。
 人間が自分の目で明るい空を背景にした建物や人物などをじっと見ているとき、背景の空は「白飛び」しているのが普通です。建物を見ている時には、空の部分の階調なんかは、人間の目には見えていないのです。逆に、暗い夜道の街灯の下で対面する相手の顔を見つめているときには、背景は真っ黒に見えているはずです。
 この話は、実際に太陽を背にした逆光状態にある人物の顔を自分の目で見て、確かめてみて下さい。

 …となると、例えば低ダイナミックレンジのデジカメで撮った画像が、「極端に明るい部分や暗い部分の階調を潰してしまう」…ということになれば、それは「ある瞬間に人間の目が見るイメージ」に近いものであり、ある面では「理に適った」イメージを作り出していることになります。逆説的ですが、明るい部分が白飛びしていたり、暗い部分がつぶれていたりするダイナミックレンジが狭いデジカメで撮影した画像の方が、実際に人間が目で見ている画像に近い…ということもできます。

■ダイナミックレンジへのこだわりとは

 しかしながら、明暗差のある風景・被写体において、ハイライト部やシャドー部の階調表現を重視する人は、ダイナミックレンジに強いこだわりを見せます。デジカメの撮影画像では、「黒つぶれ」や「白飛び」は、絶対的な批判の対象です。
 結局これは、人間が「写真」に対して、「瞬間的に人間の目の機能で得られる画像」以上のものを求めているからに他なりません。要するに、デジカメで撮影した画像に限らず、「写真」には、「人間の目が一定時間かけて得られる画像情報」…すなわち、暗い部分だけをじっと見つめた時に識別できる階調と、時間差をつけて明るい部分だけをじっと見つめて得られる階調の両方を、1枚の画像で表現できることが求められているように思います。
 それだけではありません。人間は普通、広大な視野内の風景の全てを見ているわけではないのですが、写真には「隅々の細部まで完全に写っていること」を要求します。

 私は、人間の目の機能から見て、「写実的に記録する」ことの意味を考え直す必要があるように思っています。現行のデジカメの撮影機能は、既に十分に「人間の記憶を補助する」役割を果たしてくれています。その上でデジカメに「写真作品としての画像」を求めるとすれば、デジカメはどのような方向性に進化すべきか…ちょっと気になるテーマです。

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