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無意味な画質比較評価   〜デジカメの発色とは?  2002/11/13

 小型デジカメ原理主義者(笑)である私は、「必要以上にデジカメの画質にこだわるのはつまらない」「画質評価中心のインプレッション記事など読む必要が無い」…と、サイト内のあちこちで述べています。
 デジカメは「撮ってナンボ」のものですから、初心者は、まずは携帯性のよい小型製品を安価に購入して毎日使いまくるべき…、と考えています。
 そんな話の中で、今回は「色」について思うところを書いてみます。

■発色について評価する意味

 最近のデジカメブームの中、活字メディア、ネットメディアにおいて初心者や中堅ユーザーを対象としたデジカメ評論、インプレンション記事が氾濫し、こうした記事の中では撮影画像の画質に関してやたらとクリティカルに評価することが普遍化しています。例えば、「Aという機種よりもBという機種の方が木々の緑の発色が自然だ」…とか、「発色には被写体色にひきずられやすいホワイトバランスの傾向が出ている」…などの言葉が飛び交っています。
 まあ、画質に関してゴチャゴチャと書くのをライターの責任にする気は毛頭ありません。専門家ではない私もビジネス誌向けにデジカメの製品評価を何度も書いたことがあるのですが、機能に大差がない製品について見開き2ページも書けと言われると、画質についての細かい話ぐらいしか、書くことがなくなるのです(笑)。また、デジカメ評論で食っているライターは、何か他人とは違う特徴的なコメントを書くことで自分の「ウリ」を作りたいので、そんな理由からいろいろと画質問題に触れるケースも多いでしょう。
 そして、このデジカメの画質比較の中で、もっとも評価しやすいのが「色」です。なぜなら人間は、非常に高度な色彩認知能力を持っているからです。

 さて、こうしたメディアのデジカメ画質論議を真に受けて、ベテランやハイアマチュアを自認するデジカメユーザーが、自分で作ったデジカメホームページや公共性の強い掲示板上などで、やたらと機種ごとの画質傾向等について発言しているのも目立ちます。「Aという機種はBという機種よりも自然な色合いの発色」…なんて意見をよく見かけます。私はこうした「自称・物知り」ユーザーの意見を読むたびに苦笑せざるを得ません。「自然な発色って何だ?」って感じです(笑)

 確かに、機種が異なる2台のデジカメの撮影画像を比較して見れば、その発色傾向やノイズ感などの違いが明確にわかるのが普通でしょう。しかし、発色傾向の異なるデジカメを比較して議論したり是非を論じたりすることが、さほど意味のあることだとはどうしても思えません。それは、人間の目の機能や視覚認識の構造から見て、「色の知覚」なんてものは、実にいいかげんなものだからです。また、同じ条件下で見ない限り、色の比較は不可能であり、その「同じ条件」というのは達成するのが実に難しいからです。

■「物を見る」ということ

 「物を見る」ということは、見る対象が放つ、ある波長の光が目に入ってきてそれが脳の中で電気的な刺激に置き換えられ、後頭部で処理されて「物を認識する」ということです(こちらこちらこちらを参照)。
 人間は「脳で対象を見る」ため、対象の形や色などを脳が適切に補正して認識します。例えば完全な円形の板を斜め上から見れば楕円に見えますが、それを人間はちゃんと円形として認識します。色彩に関しても同じです。同じ色の対象物でも光源の違いで全く異なる色に見えるはずですが、人間はそれを補正して認識します。蛍光灯下でも太陽光下でも、同じ赤は同じ赤として認識する能力を持っています。これは一種のAWB(オートホワイトバランス)のような機能を脳がもっているためで、基本的には記憶色との照合などを含めた高度でトータルな色の補正が可能です。さらに大脳は、「三次元空間認識」機能も持っています。

 反面、人間の目は計測器ではりません。例えば「色」について見ると、同じ人間が同じ色の対象物を見る時でも、見ている環境や条件によっては異なる「色」として認識をしてしまいます。
 色の知覚には、様々な要素があります。色面積、明暗、濃淡などを始め、補色という問題もあります。例えば特定の色同士が隣り合っていると、本来の色とは異なる色として誤認識してしまいます。
 さらにやっかいな問題は補色残像現象です。例えば、鮮やかな赤い色の紙をしばらく見た後に、白い紙へと目を移動すると、そこには青っぽい緑が見えるはずです。
 人間にとっての「色」とは、この程度にいいかげんなものです。人間は分光光度計のように、正確な色を判別できません。
 加えて、人間の色彩認知能力、色彩識別能力には、かなりの個人(個体)差があることがわかっています。
 最近、就職・就学時等の差別問題が話題になっている「色覚(色神)検査」をご存知でしょうが、色覚検査の「正常」「異常」というのは、いずれもかなり広い範囲で認められえています。加齢によっても、色の認知能力には変化するそうです。第一、日本人の男性を例にとると、約20人に1人(5%)が「色覚異常」と診断されるそうです。人間の色彩知覚能力に関しては、正常と異常の間に明確な線を引くことが出来ません。

■色とは何か?

 さらに、「色」の問題について考えてみましょう。
 ここで「色」について長々と説明するのもなんですから、こちらこちらのサイトあたりをご覧下さい。
 要するに、物の「色」を認知しているというのは、物体が光を反射しその反射光を目が感知している状態です。波長380〜770ナノメーター(nm)の波長が可視光線の範囲です。各波長は異なった「色」を持っているのですが、レーザー光線のような人工光以外では単一波長の色というのは存在せず、自然界では複数の波長が混ざり合っって様々な「色」ができます。
 物体が反射する光である「色」なんてものは、外光条件(反射の元になる光源の波長)によって著しく変化します。日照の有無、時間帯、季節などによって、同じ赤であっても「目に見える色」は著しく異なります。だからこそデジカメには「ホワイトバランス」という機能が搭載されているのですが、これには1つ問題があります。
 例えば色温度が低い電球などの人工照明下では、物は赤みがかって見えます。デジカメのAWB(オートホワイトバランス)は、それを基準となる外光色(5500度ケルビン)下で見た色に近づけるように補正します。でも考えてみれば、人間の目では実際に赤みがかって見えているのですから、これを本来の色と称する他の外光条件下での色に補正してしまうのは、ある意味でおかしくありませんか? 要するに「正しい色」とは「人間が見えている色」なのか「基準波長の光が反射している色」なのか…という問題です。

 さらに、モニタディスプレイで見ている場合は、モニタディスプレイの種類による発色傾向の違い…という問題があります。私は普段オフィスではイーヤマの17インチCRTモニタを使い、自宅では同じイーヤマの15インチ液晶モニタを使っていますが、両製品ともにかなり厳密に色合わせをしているにも関わらず、同じ画像をこの2種類のモニタで見ると、かなり色合いが違って見えたりします。
 では印刷出力した場合ならば、色を判断する条件は同じでしょうか。
 まず、パーソナルユースのプリンタについては、機種ごとにかなり発色が違うことは、皆さんもよくご存知でしょう。個人ユースのプリンタで出力することを前提に、デジカメ画像の色の比較をすることは、ほとんど無意味です。
 では商業印刷物ならどうでしょう。これまた条件によって発色は異なります。商業印刷といっても、媒体の種類によって印刷方法が異なり、使われるスキャナやインク、そして紙」などは異なります。極端な話、同じ画像データを雑誌などに印刷して比較するとしても、その印刷プロセスの違いや紙質の違いによって、異なる発色結果を招きます。だから、デジカメの撮影画像を印刷して、それを見ながら色の傾向を比較している記事…なんてものは、ほとんど意味がありません。

■機種による発色の違い

 まずは、メーカーも画素数も異なる3台のデジカメで、オフィス近くの街角の風景を写した画像を見てください(サイト内でサンプル画像として使っているものです)。


DSC-U10(130万画素)

COOLPIX2500(200万画素)

KD-300Z(300万画素)

 どの画像もデフォルトのフルオート設定で、何も考えずにシャッターボタンを押しただけの画像です。
 同じ被写体を写したにも関わらず、発色も解像度も異なるこの3枚の撮影画像は、いったい何を意味するのでしょうか?
 異なる機種で撮影したこの3枚の画像から、本当にデジカメの発色の良し悪しが判断できるのでしょうか? 解像度の問題は別にして、発色の良いデジカメはどれでしょう?

■記憶色とは

 ところで上記の3枚の画像の中で、その発色傾向が最も異なる「赤い看板」部分についてですが、確かに色の違いはシロートが見てもわかります。
 しかし、私はこの赤い看板の前をほぼ毎日のように通っているのですが、どの色が「本当の色」に近いのか、実はよくわかりません(笑)
 看板の前を通る時間帯もまちまちですし、毎日天候も変わります。つまり私は、同じ色の看板を見ていながらも、結果的にいろいろな色として認知しているのです。これでは、同じ看板の前を通りながら、毎日違う色の看板を見ているのと同じことです。その中で、どの記憶にある色が「本当の色」なのかは、判別のしようがないのです。加えて、3種のデジカメで撮影したこれらの画像は、それぞれ異なる外光条件で撮られています。従って、先の3枚の写真で、どのデジカメで撮影した画像がもっとも「自然な発色」なのか…という点については、正確にコメントできません。

 もう1つ例を挙げましょう。赤い服を着た女の子の写真を撮影したとします。よくデジカメのインプレッションなどを読んでいると、「このデジカメで撮影した赤は実際の赤と違う」…などと書かれており、あたかもそれが大きな問題のように扱われています。
 確かに人間は高度な「色の識別能力」を持っており、人間の目が波長380nm〜770nmぐらいの範囲で識別できる「色度」から推定した認識可能な色数は、「1千万色に達する」…などとも言われます。
 ところが、この「識別可能な色数」というのは、隣り合ってプリント(表示)されているような複数の色を目で見て比較識別するケースでの話です。デジカメの機能として問題にしなければならないのは「記憶色」との差です。あなたは自分の彼女や自分の娘が来ている赤いセーターの色が、「どんな赤か」を記憶していますか? 人間は「赤いセーター」を見ているとき、それが「鮮やかな赤か、くすんだ赤か」…といったレベルでは記憶しているでしょうが、厳密な色度レベルでの赤の区分などは見てはいないし、記憶してもいません。

 また、「空の青」や「木々の緑」、「赤ちゃんの肌の色」など、「誰もが日常生活で体験するシーンの色」については、カメラメーカーやプリンタメーカーなどによって「多くの人に共通する記憶色」が研究されています。しかし、これも非常に個人差があるのは言うまでもありません。例えば「海の青」の記憶などは、日本海側に住む人と、沖縄に住む人では、まったく違うでしょう。こうした「共通する記憶色」について論議することも、あまり意味のあることとは思えません。

■デジカメに求められる発色性能

 確かに、「発色のよいデジカメ」とか「高度な色再現性を持つデジカメ」というのは存在します。しかし、一般的な条件下では、「使い物にならないほどデタラメの発色をするデジカメ」というのは、現行機種では存在しません。
 自然光で撮影しているにも関わらず「赤いはずの色がオレンジ色に写る」「赤が茶色に写る」…というのでは困ります。しかし、私が過去1年間に実際に撮影した普及価格帯以上のデジカメの新製品10種以上の画像を比較してみたとき、自然光の下で「赤がオレンジ色に写る」「赤が茶色に写る」製品はありませんでした(笑)。
 これまでに書いてきたように、「発色の良し悪し」なんてかなり主観的なものですし、条件による差も大きなものです。また人間は、それほど正確に「色」を記憶しているわけではないのです。
 化学実験結果の記録や学術的な観察記録、広告分野など厳密な色再現性が求められる用途はともかく、日常の風景を撮影するデジカメに求められる記憶色の再現能力が、それほど高いものである必要はない…と思う所以です。
 だからこそ…、デジカメを購入する時には、まずは「カッコイイかどうか」を基準に選びましょう。


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