移動する道具


  ボクは25年以上バイクに乗ってきましたが、ここ数年間は、ほとんどまともに乗っていません。天気のよい春先や秋口、たまにスーパーカブで渋谷にレコード探しに行ったり、神田の本屋を回ったりする程度です。ロングツーリングをしなくなってから、もう5年くらいになるかもしれません。
 旅をするのがキライになったわけではありません。旅行好きは相変わらずで、多忙な仕事の合間を縫って、国内外へ出かけるようにしています。第一、一定期間毎に旅に出ないと体調がおかしくなります。

 これは余談ですが、人間には「旅好き」と「旅キライ」の2種類に分かれると思います。「移動型」と「定着型」と言い換えても構いません。はるか人類の誕生以降、移動型の人間が文化や技術を伝播し、定着型の人間が文化や技術を高めてきたのでしょう。その遠い昔のそれぞれの遺伝子が、現在の「旅好き」「旅キライ」の人間に伝わっているに違いないと考えています。ボクにとって旅は「本能」であり、移動し続けることが自分の宿命のように感じています。

 というわけで、そもそもボクがバイクにハマッた最大の理由は、バイクという乗り物自体が好きだっただけでなく、バイクが自分のライフスタイルを前提としての「移動手段としての適性」を持っていたからに他なりません。自分が住んでいる場所でバイクに跨れば、そのまま日本中、世界中のどこへでも行ける気がしたからです。そして、自動車よりはるかにシンプルで、保管のための場所をとらない点も、定住場所を定めず引越しを繰り返す自分には合っていたのだと思います。

 ところで、バイクでツーリングに出かけなくなった理由ですが、それはたまたま、現在は他の移動手段で旅をするのが楽しいからなのです。まず、現在は「都市」に滞在し、都市を探検するのが楽しいのです。ボクは東京に住んでいるのだけれど、国内の旅行なら、気が向くと博多や広島、大阪などへ新幹線や飛行機で行き、できるだけ快適なホテルに泊まって、街をブラブラしたり、美味しいモノを食べたりして数日を過ごします。それは海外でも同じ。例えばボクはアメリカが好きなのでニューヨークやシアトル、シカゴなど自分の気に入った街に1週間ほど滞在して、街を歩き廻り、いろいろな場所へ行き、気ままにレストランに入り、夜はクラブやバーを回ります。気に入った街には何度もでかけます。観光地廻りの慌ただしい旅はしません。もちろん、大抵は話し相手になる女の子といっしょです。
 自分の中では、こんな街歩きの旅も、厳しい気象条件の中でテントを持って何週間もバイクでソロツーリングするのも、本質的に何も変わりません。要するにどちらも「本能に基づく移動」の違った形なのです。気が向けば、そのうちまたツーリングに出かけるかもしれません。

 バイク好きの皆さん、「ストイックにツーリングをするのがバイク乗りの本質」などといわないで下さい。いろいろな旅の形、移動の形、そして楽しみ方があってもよいと思います。

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