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デジタルか、銀塩か?      2001/10/10

 デジタルカメラと銀塩カメラの優劣の比較については、相変わらず議論の対象になっています。要するに「カメラとしてどっちが優れているか」という話ですね。
 被写体を写すという機能的な部分では、カメラはデジタルかアナログどちらでも同じです。機能に差はありません。議論の対象となるのは、たいていの場合「どちらが高画質か」「どちらが利便性が高いか」という話です。しかし、どんな用途の写真を撮ることを前提に比較するのか、どの機能部分を比較にするか…などによって優劣の判断基準は変わります。
 まあ、基本的には報道写真や商業写真など業務用写真分野では「ごく一部の用途を除いてデジカメは銀塩を超えた」と言い切ることができそうです。しかし趣味性の高い分野は「超える超えない」の議論そのものが無意味です。


■解像度

 この「解像度」の問題が、「デジカメと銀塩とはどちらが画質がよいか?」という話題の中で、必ず問題になります。むろん「解像度=画質」ではありませんが、解像度が画質の大きな要素の1つであることは間違いありません。まずは、解像度の問題から考えましょう。
 「デジカメ画像は銀塩フィルムの解像度には及ばない」という意見が、依然として主流です。低感度の35oリバーサルフィルムの解像度は2000万画素以上に相当し、民生用途のデジカメは当面は500〜600万画素あたりがハイエンドです(プロ用デジタルバックなどを除く)。こうして見ると、確かにデジカメの解像度は銀塩フィルムの解像度には及びません。つまり、「民生用途で比較すると現時点の技術においては原理的には銀塩フィルムの方が高画質」という言い方ができます。
 とりあえず「民生用途」としたのは、産業用途になると、デジタルカメラの解像度はほぼ無限に拡大できるからです。早い話が、400万画素のCCDを縦横10個ずつ、合計100個並べたデジカメでも実用化は可能です。こうなると4億画素ってことになりますね。また、スキャナのようにリニアタイプのCCDセンサーをスキャンする形で数千万、数億画素のデジタル写真を得るシステムもあります。いずれも、特殊な産業用途や科学写真、天体観測分野で使われているものです。
 むろん銀塩フィルムも、サイズを大きくすれば解像度を上げることが可能です。一般的に使われる銀塩フィルムの最大サイズは「8×10」ですが、産業用ではもっと大きなサイズのフィルムが使われる例がいくらでもあります。印刷や半導体製造部門ではメートル単位のフィルムが使われる例もあります。結局のところ、産業用途を含めると、「銀塩フィルムとデジタルカメラの画素数の比較」は、意味がなくなってしまいます。

■用途別の必要とされる解像度

 話を民生用途に限りましょう。つまり、民生用途では銀塩フィルムの方が解像度が高い訳ですから、銀塩が優位にあるのでしょうか…
 写真というものは、その目的に対して「必要とされる解像度」があるのです。現在、「写真」が最も必要とされているメディアは印刷媒体です。まずは話を印刷媒体に限ってみましょう。印刷媒体に使われる写真は、それが新聞や雑誌の記事用なのか、新聞の折込チラシ用なのか、情報雑誌向けの商品画像なのか、グラビア印刷用なのか、A1サイズのポスター用なのか…によって、要求される解像度や発色ニーズが変わってきます。先に結論を述べると、少なくとも高画質グラビア向け、及び相当の画質を要求される広告用途の商品写真以外なら、まずデジタルと銀塩の画質の差はありません。
 そして、この「必要とされる解像度」の根拠となっているのが、人間の眼の分解能です。人間の眼の解像能力と印刷物の解像度の問題を考慮すれば、全ての用途の写真に「銀塩フィルムの解像度」が必要となるわけではありません。

■人間の眼の解像度と印刷物の解像度

 以前ちょっと書いたことがありますが、人間の眼の「視力」というのは、分解能を表す単位です。ちなみに「視力1.0」の人の場合、30cm離れた印刷物の約300dpiを分解できます。2.0の場合には600dpi前後が肉眼の分解能の限界ということになります。
 そんなわけで、日本のオフセット印刷においては、視力1.0を人間の眼の標準的な分解能とした印刷解像度が定められています。日本のオフセット印刷物は175線、つまり350dpiです。350dpiというのは1インチ(25.4o)あたり350ドットということです。10oの中に138本という計算になります。さて、175線で印刷したい場合に、デジカメの解像度と扱える画像のサイズの関係はどうなるでしょうか。
 35万画素のデジカメの場合には普通640×480dotの画像が得られるので、4.6×3.5cmの写真なら、350dpiの商業印刷物に対応できます。130万画素のデジカメなら1280×1000dotなので、9.3×7.2cmの商業印刷物用の写真を撮ることができます。400万画素で2278×1712dotの画像が撮れるなら、16.5×12.4cmの商業印刷物用の写真に対応します。昨今登場した800万画素機あたりがA4サイズのグラビア写真にも十分に対応するはずですが、現実には600万画素のデジタル一眼レフで撮影された画像などが、オフセット印刷された雑誌のA4サイズのグラビア写真に使われています。
 というわけで、普通の雑誌などで使う説明用写真などを撮るのなら、記事内で使用する印刷用写真のサイズから見て、300〜400万画素のデジカメで十分に間に合う計算になります。写真が小さければ200万画素のデジカメでも十分に用が足りるのです。数値上は、銀塩カメラの解像度は必要ありません。
※ただし、デジカメの1画素が3原色に対応する…という仮定での話です。        
現行撮像素子の方式から見ると、実際には話はもうちょっと複雑になります。
※また、プリンターによる印刷解像度とモニタ表示した際の画面解像度は異なる概念です。


■階調

 「階調」の問題も簡単に触れておきましょう。詳しい計算方法は書きませんが、眼の階調認識能力から見て印刷物に必要な階調は8bit程度です。ガンマ変換を考慮しても10〜12bitが人間の視力の標準でしょう。一般的なコンシューマ向けデジカメの階調がだいたい10bitですから、これも十分です。ここでも、銀塩フィルムの持つ各色16bit相当の階調は、一般的な印刷媒体には不要なのです。

■プラスアルファ

   印刷物は、このように人間の視力をもとに必要な解像度が決められています。しかし、人間の眼の認識能力は「解像度」だけで測れるものではありません。人間の目は数値で表される分解能以上の能力を持ちます。解像度以外に、色と階調に対する認識能力があるからです。またエッジ検出能力があり、これはパターン認識につながります。
 こうしたところから、オフセット印刷においてもフォントやロゴなどについては、一般に1200dpi以上の解像度が使われています。これはエッジ(輪郭)検出の能力が、通常の画像の認識とは異なる働きで行われるからです。

■個人で楽しむ写真

 個人や家庭で楽しむ写真についても、その画質が人間の眼の能力に依存する点は印刷媒体と同じです。
 個人や家庭で楽しむ記念写真は、基本的には高感度のネガカラーで撮影し、それをキャビネ版程度のサイズにプリントして楽しみます。キャビネサイズ(2L)ぐらいまでの画像を50p程度の距離で見るのなら、先に述べた人間の眼の分解能力からすると、150〜200万画素のデジカメで十分ということになります。それ以上の解像度は人間の眼が分解できないのですから不要…ということになります。こうした用途の場合、銀塩一眼レフで撮影したものも、200万画素のデジカメで撮影したものも、解像度、階調ともに、基本的な画質の差はないと言ってもよいわけす。
 また、A4サイズにプリントするなら最低でも300〜400万画素は必要…などと書いてある例も多いのですが、これもプリントした画像を見る距離の問題です。人間の眼は、距離が離れれば分解能は落ちます。A4にプリントして壁に掛けて60cm〜1m以上離れて見る(視力0.5以下の分解能)…という条件なら、別に200万画素のカメラで撮影した画像でもそれなりに見られるはずです。

■メディアとの親和性

 さて、解像度の問題はこの辺にして、いろいろなメディアとのデータ利用面での親和性を見ることにしましょう。様々なメディアとの親和性においては、銀塩カメラと較べてはるかにデジカメの方が優位です。ここで言うメディアとは、印刷メディア及び様々な電子メディア群です。
 まず印刷メディアですが、現状では、雑誌や新聞の90%以上、単行本でも70%以上がDTPシステムで制作されています。また、チラシやパンフレット、マニュアルなどもその90%近くがDTPシステムで制作されています。DTPシステムにおいては、写真は全ていったんデジタルデータ化する必要があります。銀塩写真はスキャナを使ってデジタルデータ化しなければまりません。当然ながらスキャナを利用しなくても最初からデジタルデータになっているデジカメの画像は、「写真ソース」としては非常に合理的なものです。
 現実に、印刷媒体においては、特に即時性を要求される雑誌・定期刊行物分野で、デジカメ画像が主流となりました。カタログ雑誌や情報雑誌など写真点数が多い分野では、雑誌の種類によってはほぼ100%デジカメ画像しか使わないものも多いのです。
 即時性が要求されると言えば報道写真分野があります。新聞用の写真もデジカメで撮影したものが圧倒的に多いのが現状です。オリンピックなどの大型スポーツイベントの速報写真の多くがデジカメで撮影されたものです。
 つまり、新聞や雑誌などの分野では、既にデジカメが銀塩カメラを駆逐しつつあり、今後近い将来には、銀塩カメラの利用率がゼロになることはほぼ確実です。

 また、最近はWebサイトも重要な報道・商業・広告メディアとして利用されるようになりました。即時性の重要度がさらに高いWebメディアにおいては、印刷媒体以上に銀塩写真は駆逐されつつあります。
 またWebメディアは、基本的に液晶やCRTなどの電子モニターで見ます。モニタの解像度は、いまのところXGAが主流で、SXGAが普及の兆しを見せてきたというところです。200万画素のデジカメで撮影可能な画像の最大サイズは、SXGAよりさらに上のUXGAのフルサイズ画面に匹敵します。こうした面から見ても、Webメディアには銀塩写真は必要ありません。

■ラチチュード

 当然、銀塩フィルムよりもCCDやCMOSの方がラチチュードが狭いです(対数出力型イメージセンサなど特殊用途の高ダイナミックレンジ型センサを除く)。従って、明暗の差が大きい被写体に対して「目でみた通り写す」となると、デジカメの方が不利になります。ちなみに、ISO100の銀塩ネガフィルムのダイナミックレンジを数値化すれば60前後、300万画素程度の汎用CCDのダイナミックレンジは50ちょっと…といったところです。
 また、太陽を背にした被写体の撮影とか、明るいトンネルの出口付近を背景にトンネル内部から写す…といったケースなど、極端な逆光条件では、現状のCCDやCMOS等の撮像素子のダイナミックレンジでは、画像が破綻するケースが非常に多いのは事実です。
 しかし、われわれが一般的に撮影する風景写真のレベルでは「デジカメでは撮影できないが銀塩フィルムなら撮影可能」というシチュエーション自体が、それほど多くはありません。デジカメでも銀塩でも破綻する…というシチュエーションの方が多いくらいです。ましてや、意図的によい外光条件を作って撮影することが前提のスタジオ撮影や各種商業写真分野では、ほとんど問題にならないケースが多いことも確かです。従って、一般ユーザーが気にする必要は無い…というのが私の考えです。
 さらに、撮像素子の技術革新によってダイナミックレンジは劇的に向上しつつあり、近々コンシューマ向けデジカメ用CCDのダイナミックレンジが銀塩フィルムを上回る可能性がある点も付け加えておきます。

■その他

 CCDサイズが小さいとデジカメの構造上、被写界深度が深いために「ボケ」が表現できません。つまり、銀塩一眼レフで大口径レンズを使って絞り開放で撮影した時のような美しいボケ味を出そうと思ったら、非常にサイズが大きいCCDを使って被写界深度を浅くしてやる必要があります。この点は、現状では露光面積が大きい銀塩フィルムに軍配があがります。コンシューマ向けデジカメと同じ価格帯の高級銀塩コンパクトの方が、ボケ味はきれいです。
 「背景がボケた美しいポートレート写真を撮影したい」という人は、いまのところは大型CCDを使った一眼レフタイプの高価なデジカメが必要となるのが現状です。

■データの保存性

 フィルムもプリントも劣化します。しかしデジタルデータは絶対に劣化しないので、保存性の面ではデジタルの方が圧倒的に優位です。
 デジタルデータは保存データ形式や媒体が変化するのでデータの保存性が悪いという意見を述べる人もいますが、デジタルデータというのはメディアの種類をまたいでデータを交換できるわけで、媒体が消える前に主流となっている媒体にデータを移行しておくだけです。
 現に、文化的価値のある古い映画フィルムやオリジナルプリントをデジタル化して長期保存するというプロジェクトが、各国で進んでいます。データの保存性という面では、寿命がある銀塩フィルムよりもデジタルカメラの方がはるかに有利です。

■プリントの問題

 デジカメの画像をインクジェットプリンタで出力したものと、印画紙に焼き付けた銀塩写真とを比較して、デジカメのプリント画像には保存性がない…という意見を述べる人がありますが、これもほとんど無意味な比較です。デジタルデータはそのまま保存して、プリントを見たいときに出力すればよいだけの話です、わざわざプリンタに出力してから保存しておく理由がありません。またインクジェットプリンタ用のインクの保存性を理由にしているのならば、それもズレた話です。デジタル画像を印画紙に出力するプリンタも存在するのですから、印画紙の保存性を要求する人は、デジカメデータを印画紙に出力すればよいだけの話です。
 プリントされたものの保存性の問題で、デジタルとアナログを比較することは無意味です。
 ところで、私はデジカメの画像をプリントしません。写真を撮影する目的が「プリントしてアルバムに貼っておく」というのであれば、それはもう100%銀塩カメラの方が便利でしょう。でも私自身、写真をアルバムに貼っておくといことをしないので、この辺のメンタリティがよくわからないのです。

■趣味性

 個人の趣味として使うのならば、どっちでも好きな方を使えばいいですよね。当たり前の話です。また、気が向いた時に両方を使い分ける…というのも良いかもしれません。
 アナログの方が趣味性が高い…という人もいますが、デジタルな部分が面白いという人には通用しない話です。逆にデジカメの方が遊べるっていう意見をパソコン持ってない人に言っても無意味ですから…
 ただ、銀塩カメラは「機能とは無関係のモノ」として愛でる対象になりやすいのですが、デジカメは銀塩ほどは愛でる対象になりにくいのは事実でしょう。デジカメを買う人は絶対に機能スペックを気にしますが、銀塩カメラの場合、ビンテージモデルのコレクターがいますよね。

■写真はしょせんは感性で撮るものか

 これは余談ですが、「デジカメも銀塩カメラも同じ、しょせん写真は感性で撮るもの…」という意見を述べる人がいます。とんでもない話です。写真は感性で撮るものではありません。写真はシャッターを押して撮るものです…(冗談です)。
 私は、「写真は感性」という言い方が好きではありません。というのも、多くの普通の人にとって写真の良し悪しとは、「感性」ではなく「撮影の背景にある個人的な理由」によるものだからです。自分の子供が運動会で活躍している写真が気に入っている人にとっては、写真と感性とは無関係です。写真に対する「価値」というのは非常に個人的な根拠で決まります。芸術写真はともかく、やはり「自分が撮りたい写真が撮れる」カメラが「よいカメラ」です。
 だから、「自分にとって必要なカメラの機能」についてある程度は白黒をはっきりとさせることも必要でしょう。


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