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「1ch.tv」の、お笑い顛末    2001/10/9

 なかなか高尚な理念を掲げた「1ch.tv」がスタートしました。早速書き込みを見たところ、あまりのレベルの低さにあきれてしまいました。
 私は、西和彦氏が提唱する「1ch.tv」の理念を読んで、大笑いしました。「あんた、何様?」って感じです。そこでちょっと、1ch.tvに関して思うところを書いてみます。




■「1ch.tv」の理念

 「1ch.tv」の設立経緯と理念は、次のようなものだそうです。

……株式会社アスキーの特別顧問である西和彦氏と、バリュー・エクスチェンジ株式会社、および株式会社Eストアーは、会員制の掲示板サービス「1ch.tv」を5日より開始する。登録料金は無料。当初は無料で提供するが、2002年2月から有料サービスを開始する予定だ。
……書き込みは、実名・ペンネーム・匿名でも可能だが、2つの名前を使い分ける「自作自演」などはできないシステムになるという。各板には、編集長、編集者を置き、意味のない投稿や嫌がらせ、非難中傷やブラクラなどを削除していく。また、全体の半分にあたる30板で有料サービスを実施する方向で、情報発信者自身が悼ソ値のある著作物だ狽ニ判断した場合、1アクセス5円から10円程度の有料コンテンツとして値段を設定できる。将来的には、第三世代携帯電話やPHSなどの動画転送技術を利用して、リアルタイムで映像・音声・記事の有料発信ができる仕組みや、日本語を15〜16ヶ国語に自動翻訳する機能を確立する予定だ。このように、一般の人々が価値のある専門知識を発信することで、「知価創造化社会」の実現を目指す。
……「1ch.tv」を開始する動機について西氏は、「『2ちゃんねる』を見て、こんな失礼で、酷い、めちゃめちゃなBBSがあっていいのか」と疑問に持ったという。そこで実際に、「2ちゃんねる」のユーザーと話し合ってみて、「『それなら、自分でやってみろ』と煽られた」ことも一因となったようだ。また、西氏は、「『2ちゃんねる』が使いやすく改造できないのは、他人の作ったスクリプトを『パクった』からだ」と指摘し、そのオリジナルスクリプトを作った、あめぞう氏が協力していることで「ネーミングには、元祖『1ch.tv』という意味もある」と語った。
……一般の人々が価値のある専門知識を発信することで、「知価創造化社会」の実現を目指す。
……バリュー・エクスチェンジの清水康司社長は、「『1ch.tv』は、他の巨大掲示板などで疲れた人が、気持ちよくコミュニケーションできる、やさしさを目指した掲示板だ…」と語っている。

 以上が「2ちゃんねる」に代わる「1ch.tv」の理念だそうです。なかなか高尚なので、笑ってしまいました。「知価創造化社会をめざす」だの「やさしさを目指した掲示板」だの、チャンチャラおかしい…というのが基本的な感想です。
 まず第一に「パクった」のは、どう考えても1ch.tvの方です。「1ch」というネーミング自体が、2ちゃんねるの立派なパクリです。「あめぞう」から「2ちゃんねる」へと移行する経緯は十分に承知していますが、現在の2ちゃんねるは質的にも量的にも、あめぞう時代とは異質のメディアに発展しています。メディアとしては完全に別物です。そして、その「メディアとしての2ちゃんねる」を作っているのは、システムではなく参加者です。まずはこの点をはっきりさせたいと思います。

■メディアとしての2ちゃんねる

 「2ちゃんねる」が優れたメディアである所以は、「理念が無い」からです。ありとあらゆる立場と意見の膨大な書き込みがあり、そこには「味噌もクソもごた混ぜ」で、事実上ほとんど誰からも監視・検閲がされていません。しかも、その書き込み数(情報発信者数)が空前の膨大な数である点に、メディアとしての特質があります。ここまで膨大な情報が発信され、膨大な受け取り手がいる、しかもそこに書かれた情報の内容はもう好き勝手のメチャクチャなもの。こんなメディアは、かつて存在しませんでした。
 確かに「知価創造化社会をめざす」のもよいでしょう、「やさしさを目指す」のもよいでしょう。しかも、編集長なる人間の良識によって情報が選別されるわけです。こうして何らかの「理念」を設けたとたん、発信される情報は質的に変化します。理念に共鳴する人間しか書き込まなくなるからです。情報の多様性は失われ、価値の無いものになってしまいます。
 管理者によって情報内容がコントロールされる掲示板は、「2ちゃんねる」のアンチテーゼというよりも、「どこかの仲良しサイトの掲示板」に過ぎません。現在、世界中に何億とあるWebサイトのうち掲示板を設置した個人サイトがどのくらいあるのかは知りません。でも、何千万もあるこうした個人運営の掲示板では、運営者の方針や理念に賛同したいろいろな参加者が集っているわけです。「1ch.tv」はこうした、インターネットの中に無数に存在するコミュニティと基本的に同じものに過ぎないと思います。そんなつまらない掲示板を、わざわざ集めて金をとって運営するなんて何を考えているんでしょうか。
 2ちゃんねるこそは、その情報量とアクセス数によって、その無法ぶりによって、これら無数のコミュニティと一線を画しているのです。

■私にとっての2ちゃんねる

 私にとって2ちゃんねるは、まずは貴重な情報源です。
 私は残念ながらROM専門で、めったに書き込まないというよりも、過去に数回しか書き込んだことはありません(カキコしたのはラーメン関係のスレだけです)。しかし、毎日数回は必ず2ちゃんねるにアクセスします。情報源としての2ちゃんねるは、私のような仕事についている人間にとって、もう絶対に必要不可欠なものとなりつつあります。例えば発売されたばかりのLANカードがLinuxの特定のリビジョンと相性がよいかどうかを調べようと思ったら、サイトでいくら検索しても絶対にわかりません。こんな時、2ちゃんねるには発売と同時に数百人のユーザーの声が書き込まれます。また、見つかりにくいドライバ類を探したい時や特殊なフリーウェアを探したい時など、2ちゃんねるで尋ねれば、必ず誰かが答えてくれます。ADSLを契約しようと思った時には、どこの事業者がよいのかを判断する材料をたくさん見つけることができます。
 また、あるコンシューマ製品について雑誌の記事を頼まれたとします。実際に撮影画像がどうなのか、使い勝手がどうなのか調べたい時には、2ちゃんねるに行けば、いくらでもユーザーの声を拾うことができます。家電からパソコンのパーツまで、あらゆる製品の「生のユザーの声」がリアルタイムで聞けるのは、2ちゃんねる以外にありません。
 また、情報源としての2ちゃんねるが優れている点に「企業情報」があります。企業の内部の情報が大量に書き込まれるため、人間関係などの生々しい情報を拾うことができます。
 仕事にだけ使っているのではありません。プライベートでは、私はラーメンの美味しい店の情報や出張先の街の飲み屋情報なんかをよく2ちゃんねるで拾ったりします。
 むろん2ちゃんねるは、「影」の部分があります。他人を誹謗する人間も多いし、またUG情報も大量に流れています。また2ちゃんねるに書き込まれる情報の半分以上は「デタラメ」でしょう。しかし、2ちゃんねるには毎日500万以上のアクセスがあります。その1/10が使える情報ならば、それでも50万件以上のありとあらゆる分野の情報が集まる場所です。まさに世界に類を見ない「情報の集まる場」であり、ここ無しでは生の情報を集めることはできません。また、「影」の部分は、必ず一般ユーザーから排除される健全さも持ち合わせています。こんなところは「アメリカの世論」に似ているかもしれません。

■現実の社会を写す鏡

 私は、「ごった煮」である2ちゃんねるは、「現実の社会を写す鏡」だと考えています。そこで、2ちゃんねるの陰の部分について考えてみましょう。まず、特にひどいと思うのは不愉快な「差別」発言です。朝鮮人や中国人に対する罵倒、部落問題に関するあまりにも低次元な書き込み、身障者を始めとする社会的な弱者への差別発言などが、2ちゃんねるの代表的な陰の部分です。私は絶対に許せないと言うよりも、生理的に許せません。この手の発言は虫酸が走るほど嫌いです。
 しかし、これらの発言は非常に不愉快ではあっても、「現実にはこんなことを考えている人間が存在する」ことを知らしめてくれる貴重な情報です。というのも、差別というのは人の心の中に沈下して存在するケースが多いわけで、普段口では奇麗事を言っていても実際に我と我が身のこととなると、露骨な差別意識を剥き出しにする人間が社会に数多く潜在しているのが現実です。世の中には「クソ」のようなヤツがたくさんいます。それが現実です。
 マスコミは神経質に「差別用語狩り」をしますが、現実にはメディアを背けており、正面きってこうした「内なる差別」を掘り出す作業をしません。こうした状況では、絶対に差別はなくなりません。私は、現実を映す鏡としての2ちゃんねるは、人の心に潜むものまで見せてくれることで、差別をうやむやにしている社会に対して一定の役割を担っていると考えています。
 そしてもう1つの陰の部分は「個人攻撃」です。極論すると、私自身だってプライバシーを暴かれて、2ちゃんねるの掲示板で個人攻撃を受けるかもしれません。正直言って怖いです。でも、これは、こうした「何でもあり」のメディアが持つ止むを得ない「リスク」だと考えています。自由に情報を発信できるメディアには、そのメディアで自由に情報を発信したい人間が甘受すべきリスクがあると考えます。私はリスクのデメリットを考えても、こうしたメディアは存在すべきだと考えています。

■実スタートしたが、直後に閉鎖へ…

   実際にスタートした1ch.tvを、開始直後に見てみました。私が批判するほどのことはないようです。
実際にクソスレばかりです。1ch自体の存在意義に関する議論だけが少し盛り上がっていました。個別テーマのスレには、価値のある情報も何もありません。
 しかも荒らしと批判ばかりで、今日(10月9日)は既に書き込み禁止状態になっていました。
 実際の1ch.tvを見ての感想は、一言でいえば「2ちゃんねるからエロ掲示板や危ない系の掲示板をなくし、そこに検閲制度を加えただけ」ですね。実につまらないものです。
 1ch.tvにこんな発言があったので、書き込み者に無断で引用させて頂きます。

マクルーハンからやり直せよ。
メディアの質を決めるのは規範だぜ、構造が質を決めるんだ。
煽り、語り、荒らしのないところには本物のメディアは育たない。
2chはメディアの本質を突いている。
「1つの板ごとに編集長が置かれ、不適切な投稿は編集長により削除されることもある」
1chは技術的な仕組みは2chと本質的にはかわらんだろうが
運用の構造ではYahooBBSとかNiftyと変わらない。
インフラの性能と人間の脳の不完全さを良く把握してる2chの運用にくらべれば15年遅れている。
笑ったよ、西くん!!!

 まさに1ch.tvの本質を語っていると思います。
 「マクルーハンを読み直せ」というのは、私も言いたいと思います。「メディアはマッサージである」という有名なマクルーハンの言葉があります。人々が異なる自分を演じ、社会規範や社会構造を作るという電子メディアの特性を肯定的に受け止める事で、より開けた電子メディア観が得られる…こうしたマクルーハンの考え方は個人的には賛同できない部分もありますが、西和彦氏には有効でしょう。

 「1つの板ごとに編集長が置かれ、不適切な投稿は編集長により削除されることもある」…そんな掲示板は、個人のメディアにしか過ぎません。いや「メディア」と言える代物ではありません。「特定個人の理念」や「管理者から与えられた規範」によって運営されるメディアで、「知価創造化社会」ができるとは思えません。
 10月9日現在で既に閉鎖寸前ですが、まあ、まもなく本当に閉鎖するでしょう。西和彦氏の名前で商売しようと考えた連中も、見込みが外れてお気の毒でした。まあ、西和彦氏が、2ちゃんねる上で自分を批判されたのを怒って、ケンカ腰で始めた…というのが、真相らしいですから。